だって好きだから!
□♭12
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混んでることもあってオレたちはケーキを食べ終えた後、早々に店を出た。
名前ちゃんは断ってきたけど、オレが押し切って奢らせてもらった。
水島はどうしたかしらないけど、三上に引けを取るのは嫌だからね。
店舗の出口付近は空席待ちの客で溢れていた。
その人たちの顔を見たオレは席を立って良かったと思った。
こんなに好意的に人から見られることってそうそうないよね☆
真昼の駅前通りをオレは自転車を押してキミの横を歩いた。
目が痛むほどの日差しの下にいるのにキミは何故か妙に涼しげに見える。
「暑くないの?」
ってオレが聞いたら
「猛烈に暑いよ」
って声を出すのも億劫そう言った。
やっぱり暑いんだ。
「涼しそうに見えたから」
ってオレが言ったら
「あんまり汗かかないせいかよくそう言われるんだけど、めちゃくちゃ暑いよ。
干物になるんじゃないかってくらい暑い…」
そう言って眩しそうに顔を上げてオレに笑いかけた。
そうして二人、街角の雑踏を並んで歩いた。
「じゃあ、そろそろ乗る?」
オレは自転車の後ろを指さして言った。
いつしかオレたちは人通りの少ない住宅街へと入っていた。
時は真っ昼間。
遠くに陽炎が立っている。
アスファルトからの照り返しで、下を向いて歩いても顔に熱が当たるのが分かる。
しんどい…
暑さに強いオレでもそう感じる。
海が近いこの辺りでもこんなに暑いなんて、今日の最高気温は一体何度まで上がるんだろう、オレはそう思っていた。
「いいの?」
名前ちゃんはそう言って足を止めた。
普段だったら少し遠慮するところなのに乗る気満々だ。
肩で息をし始めている、辛かったんだ。
「乗って!」
オレは自転車にまたがってキミを促した。
「ありがとう」
ホッとした様子を見せたキミは躊躇なく自転車の後ろに乗って、オレの肩に手を置くと安心したように大きなため息を一つ吐いた。
そして
「暑いね」
と言った。
レッツゴー!
オレはペダルを漕ぎ始めた。
「重いでしょう」
肩越しにキミが心配そうにそう言った。
「全然!」
オレは普段、バスケ部のヤツらを乗せたりしてるから女の子なんて空気も同然だった。
信長なんて乗せると、オレに全体重預けてんじゃないかってくらいもたれかかってくるんだから。
そして
「神さんの体ってしなやかっすよね〜」
なんて男からは絶対に囁かれたくない言葉を耳元で連発したりする。
だから、出来るだけ自分の体重を支えようとしている名前ちゃんなんて、物足りないくらいだよ。
もっともたれかかって欲しいのになぁ。
後ろからハグしてって言いたくなっちゃう。
オレはゆっくりと漕ぎ始めた自転車のペダルを漕ぐ足に力を入れて徐々にスピードをあげる。
「涼しい!」
そう言って喜ぶキミ。
ふふっ、それならもっと♪
全速力でペダルを漕いで坂道を上がる。
坂の途中でキミが
「下りるよ」
そう言ったけど
「大丈夫」
と言ってそのまま一気に駆け上がった。
坂のてっぺんまで来ると今度は下り坂。
グイッと一漕ぎして坂を下り始める。
徐々にスピードを上げるオレの自転車。
「っ早い…早い!
早いってばーーー」
キミがオレの後ろで声を上げた。
「怖いーーー!!」
声に恐怖が混じる。
「しがみついて!!」
オレは前を向いたままキミに言った。
自転車のスピードはますます加速する。
「きゃあーーーー」
とうとうキミがオレの背中に抱きついて顔を埋めた。
腕をオレの胸に絡みつかせギュッと力を込める。
良い感触…。
やっほーーーー♪
そのまま一気に坂を滑り降りた。
坂を下りきるちょっと手前でスピードダウン。
そして一旦停止。
自転車が止まったことに気付かないのか、恐怖を与えすぎたのか、
オレの背中がそんなに心地良いのか、キミはオレの背中にしがみついたまましばらく離れなかった。
「涼しかった?」
オレは振り返ってキミにそう言った。
「…」
キミの鼓動が背中から伝わってくる。
随分早い。
「怖かった?」
ちょっとだけ申し訳なさそうに言うと
「…すっごく怖かった!」
ようやく顔を上げてそう言う君の目は半分怒っているようだった。
「涼しくしてあげたかったんだよ、怖がらせちゃってごめんね」
「背筋だけ凍った…」
真顔でそう言ってからふっと吹き出すキミ。
「家までもう少しだから、ゆっくり漕ぐからそのまましがみついてて♪」
そう言ってオレはグイッとまたペダルを漕ぎだした。
体制を少し戻したものの、オレに寄りかかりぐったりしている名前ちゃん。
やり過ぎちゃったかな…。
ちょっとしたジェットコースター効果、効き目あったかな??
オレ、キミと心でも繋がりたいんだ。