だって好きだから!

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店舗は古いビルの一階にあった。

アンティーク調の扉を押して店内に入る。

内装はオープンしたばかりのそれに相応しくキレイでかわいらしかった。


ここに三上と水島と来たんだね。


オレの心の中で嫉妬の炎が燃え上がり始める。


今すぐキミをオレだけのものにしたくなる。


でも、今日という日を大切にしたい!

その一心で心の中でメラメラしている炎の消火作業に従事する。


キミはオレのもの、
キミはオレのもの、
キミはオレのもの、


おまじないのように唱えて鎮火終了。




「お二人様ですか?」

かわいらしいコスチュームに身を包んだ女性従業員がオレたちに近づいてきてそう言った。

オレは満面の笑みで答える。

「カップルです♪」

女性従業員は目を丸くし、それからフッと笑った。

名前ちゃんが

「今日はドリンクサービスの日じゃないから」

顔を真っ赤にしてオレの耳元に向かって言う。

オレたちの様子を見ていた女性従業員はクスクスと笑って

「こちらへどうぞ」

とオレたちを空いてる席へ案内した。




渡されたメニューを見ると、ランチタイム限定でランチセット+ケーキというコースがあった。

ランチのメニューはカレーライスかトマトの冷製パスタ、それにドリンクが付く。

それに好きなケーキを選んで1,200円だった。


オレが

「どうする?」

と名前ちゃんに聞くと、

「ここでお昼も済ませちゃう」

と言った。

オレもすっかり腹が減ってたから二人でそうすることにした。

オレはカレーで名前ちゃんちゃんはパスタを注文した。

ここのランチはメニューが二種類しかないわりに人気があるみたいだった。

オレたちが入店した後、続々と客が入ってきてあっという間に満席になった。


「すごい人だね」

オレがそう言うと、

「前に来たときもいっぱいだったよ」

とキミが言った。

そして、

「それってバスケ部のジャージ?」

とオレの着ているものを不思議そうに見つめて言った。

「あ、うん。ごめん、ついいつもの感覚で…

休みの日はジャージ登校してるから。

私服持ってくるか、せめても制服でくれば良かったね」

今朝のオレはすっかり舞い上がっててそんなことに気が回らなかった。

「ううん、かっこいいね。初めて見た」

ニコッとしてキミがそう言ってくれた。

「ほんと?」

「うん、スタイル良いから何でも似合うね」

オレの目を真っ直ぐに見て言った。

「ありがとう…」

オレは照れくさくなって下を向いて言った。


「名前ちゃんの私服も、すごくかわいいよ」

視線を上げてキミにそう伝えた。

「一応おめかしして来たから」

そう言うとふふっと笑って、ありがとうってちょっぴり恥ずかしそうにした。


オレたち付き合ったばかりの初々しいカップル感がすごく出てるよね♪

あーーー楽しいーーー!!




それから少しして、オレのカレーと名前ちゃんのパスタが同時に来た。

かわいらしい店内の様子にぴったりなカレーとパスタだった。

味ははっきり言って美味しかった!

名前ちゃんも

「美味しい!」

って感激していた。


オレにとってはボリュームは物足りないけれど、キミはちょうどいいって言ってた。


料理の皿が片付けられると、すぐに飲み物とケーキが運ばれてきた。

オレはビターなチョコレートケーキ。

名前ちゃんはチーズケーキ。

飲み物は二人ともアイスコーヒーだった。

ケーキこそがこの店の本職とあって一口食べた瞬間オレも思わず

「うまっ!」

って声を出した。

「だよねーだよねー!!」

キミは昭和時代の少女漫画の主人公みたいに瞳をキラキラにさせて、オレに心から同意している。


「美味しいもの好き?」

そうオレが聞くと

「うん♪美味なるものが好き!!」

興奮気味に答えた。

オレはこだわりを語るいつもと違うキミにちょっと興奮!

ビミって、スキって、動く唇に脳が痺れる。


そして名前ちゃんは

「私、料理教室に通いたいと思ってるんだ〜」

と言った。

「料理人になりたいの?」

オレがそう聞くと

「ううん。

…自分だけのために作るの♪」

そう言ってイタズラっぽく笑う。


「オレも食べたい!」

すかさずそう言うと、

「今はまだ、最初から最後まで自分で作れるものなんてかき氷くらいしかないから、当分無理」

そう言って笑った。

「かき氷?」

「そう!

氷をセットして、レバーを回してガリガリと削るでしょ、

いい感じに削れたらシロップをかけてできあがり!」

ほーらね♪ってニコッとして言った。

オレが目を丸くしていると、肩をすくめて照れ笑いをする。

「美味しいものは好きなんだけど、今のところの実力はそんなもんなの〜」

えへへと笑った。

「多分ねえ…料理教室には早めに通い始めた方がいいと思うよ」

オレがふっと笑ってそう言うと

「!? それひどーい!」

そう言ってアハハと笑った。

屈託ない笑顔をオレに向ける。

オレもアハハって笑った。



キミは覚えていないだろうけど、オレがキミに恋した瞬間もキミはこうしてオレに笑いかけたんだよ。

その瞬間からオレはキミの笑顔を独り占めしたくなったんだ。

キミ自身をオレだけのものにしたくなったんだ。

そして、絶対そうするって決めたんだ。

なぜって、キミのその笑顔は誰かが守らなきゃいけないものだって思ったんだ。

キミは当たり前のようにそうして笑ってるけど、オレにはそれが夏の日の朝霞より儚いものに感じられるんだ。

キミのその笑顔がいつか消えてしまう日がくるなんてオレには耐えられないんだ。

キミにはいつまでも笑っていてほしいんだ。

そしてその役目はオレがするって決めた。

誰かに曇らされる前に、誰かに傷つけられる前に、誰かに壊される前に、その笑顔を守るって決めたんだ。

その為ならなんでもする。

それがオレの強すぎる独占欲との単なるすり替え行為だったとしても…。


オレがキミを守るよ。

だからキミを一秒だって早くオレだけのものにしたいんだ。

キミが欲しいから、どうかオレに夢中になって。



こんな理屈、理解できないよね。

オレだってどうかしてるって思ってる。

でもオレ、本気なんだ。
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