だって好きだから!

□♭9
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図書館の前まで来ると、

「席、確保してくる!」

と言って名前ちゃんは図書館の中へ入って行った。


オレはキョロキョロして空いてるベンチを探す。

行動パターンは皆同じようでベンチの残りも後わずかだった。

なるべく人目に付かないところを探す…なんて行ってる場合じゃないかな。


幸い人里…図書館の裏の方にポツンとひとつだけ離れて設置されているベンチが空いていて、

オレはそこにオレの弁当をポンと置くと図書館の前に戻った。

名前ちゃんもちょうど戻って来たところでお弁当を抱えて立っている。

「こっちこっち!」

と手招きをしたら、

「ベンチ、探しておいてくれたの?」

と目を輝かせて喜んだ。


決まってるじゃないか、オレはそんなにぼんやりした男じゃないよって…もう知ってるか。


石畳の通路の両サイドに並ぶベンチ。

その間を名前ちゃんの手を引いて歩く。


いつにも増してニッコリ微笑んで名前ちゃんの瞳を覗き込んだりしてみる。

他のことなんて気にならないって風…実際本当だけど、にする。

大した距離じゃないけれどそんなことを張り切って二人のベンチに辿り着いた。

これで不特定多数の人がオレたちのことを知ったはずだ♪





ベンチには名前ちゃんを先に座らせてオレはキミの右側になるべくくっついて座る。

なのに途端にキミが左にずれた。


……少しだから気にしないことにする。

「神くん、今日はお弁当なんだね」

ってオレにニコって微笑むキミがなんにも気にしてないんだから。

気にするだけ時間のロスだし、どうせ二人っきりなんだから徐々に近づけばいいんだし。

オレは気を取り直して君に答える。

「うん。オレも大抵は弁当持ってるんだけど、早弁した時は昼前に購買で買い足してるんだ」

て言ったけどオレは大抵早弁してる、小菅もね。

そして三限目の休み時間にいち早く購買に行って好きなパンをゲット、もしくは小菅と昼休みに食堂で食べている。


今日はテスト前で朝練が休みだったから弁当が残ってたってわけ。

小菅は食ってたけど。

オレはこの事態を想定して弁当を残しておいたんだ。

オレが昼飯のことを伝えたら食堂行くって言ってたな。


…なんでこんなに小菅のこと話してるんだろ、…やめよ。



ところで明日はテスト前の日曜で一日休み。

どうやって過ごそうかな〜。


「ねえ、今日はいつもより早く練習が終わるんだけど、どうする?」

オレが弁当のおかずを箸でつまみながら言うと、

「あっ!今日は神くんちが唐揚げなんだ!」

と目を輝かせて言った。


ちょっとオレの話…


仕方なくオレがキミに答える。

「本当だね、気付かなかったよ」

「お弁当のおかず、気にしてないの?」

驚いたようにオレを覗き込んだ。

「今日はたまたま…。

良かったら一つ食べる?昨日、もらったし」

キミが返事をする前に今つまんでいるのを自分の口に放りこみ、新しいのをつまみ直してキミの口の前に差し出す。

「いいの?」

「うん」

「じゃあ遠慮なく…」

そう言って弁当箱のふたを差し出してきた。


何それ?

まさか今の状況を無視してそれに乗せろって言うんじゃないよね?

だったらあげないよ。


オレはニッコリ笑って、つまんだ唐揚げをキミの口元近くに寄せた。

やっと状況に気づいたようで

「え?」

なんて言う。

ほらっ、てオレはキミの唇に唐揚げをちょんとくっつけた。


ボンってキミの顔が赤くなる。

オレの愛情が伝わったのかな、そんな顔してくれて嬉しいよ。


キミは、んーという顔をしてパクッと唐揚げを頬ばった。

もぐもぐ…ゴックン。


か、かわいい…♪


弁当を脇に置いてキミを抱きしめようとしたら、

「お、美味しい!

美〜味〜し〜い〜!!」

天を仰ぎ足をバタバタさせた。

そして

「すごいよ、すごく美味しい!

神くんのお母さんてお料理上手なんだね!!」

最上級に輝いた瞳をオレに向けた。


名前ちゃんて小犬キャラ!?

昔、オレんちの隣にいた小犬に似てる。


え、その小犬?

ご心配なく、今は巨犬となってオレんちの隣にいるよ。



「そう?オレはよく分かんないけど。

弁当を人に分けたの初めてだし。

でも、友達とか来てご飯食べてったりすると、美味いって言ってくれるかな。

でもお世辞かもしれないし」

オレは本当にオレんちの母親の料理が美味いかどうか分からなかった。

不味いとは思ったことないけれど…。


「ううん、それ絶対本当のことだよ。

お世辞だったら分かるって。

神くんのお嫁さんになる人は大変だねー」

自分のお弁当のおかずをつまみながら、まるで他人事のように言う。


今日はハンバーグなんだね。


「はい!」

そう言ってハンバーグをオレに差し出してくれた♪

け、ど…


こらこら!

そこに置くんじゃないでしょ、ここに持ってくるんでしょ!


オレは間一髪でキミの手を取ることに成功しそのまま持ち上げて口元に運ぶと、キミのお箸につままれたハンバーグをパクッと食べた。

お弁当用に小さく形成された自家製のハンバーグ、ソースがよく絡んでてとっても美味しい♪

ニコッとしてそう伝えると、

「そお?」

と半信半疑な顔をした。

オレはキミの瞳を覗き込んで、

「家庭の味、これがいい」

と言った。

名前ちゃんは目をくりっと丸くして

「お兄ちゃんのお婿さんになる?」

と真顔で言った。

オレが目を点にさせてると、口元に手を当ててクスクス笑いだした。

オレはムスッとして

「本気で言ってたら怒るよ、お仕置きするよ」

と言った。

名前ちゃんは俯いた姿勢のまま肩を小刻みに揺らし、

「冗談に決まってるじゃない♪」

お兄ちゃんフツーだし、と言って笑い続けた。

いつまでもクスクスと笑い続けるキミに、

「オレもノーマルだよ!

もう、お仕置きしちゃうよ」

そう言ってオレはキミの肩を掴んだ。

「きゃっ!?」

驚いたキミが顔をあげる。

上体が揺れてキミの膝の上のお弁当がバランスを乱す。


オレのはちゃんと脇に置いてからこういうことしてるから大丈夫♪


膝の上のお弁当のことを忘れてキミがオレに抵抗しようとする。

「弁当、押さえて!」

そうオレが言うとキミは慌てて押さえにかかった。


無防備になったキミの唇にゆっくりとキスをする。

オレと同じ味のする口の中を何度も何度も味わった。


キスの後はそのままキミを抱きしめた。

そっと耳元に唇をあててかすかな声で囁く。

「名前ちゃん以外とは結婚しない」


キミは何も言わなかった。

ただ膝に乗ったお弁当のせいか、一切抵抗もしなかった。
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