だって好きだから!

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次の日の朝。

今日は土曜日、練習は午後一からだから平日よりも早く終わる。

どうやって過ごそうかな〜、テスト前だから真っ直ぐ帰るって言うかな?

って思いながら教室に入ろうとしたところで声をかけられた。

オレが知っている限りでは名前ちゃんの一番の親友、森村だった。


小菅を先に教室に入れて森村と対峙。

森村はチラリとオレを見遣って言った。

「手短に説明して。どういうこと?」

やっぱりそう来たか。

「名前ちゃんから聞いたんでしょ。

それ以上オレから何聞くの?」

「確か一昨日の夜は水島くんに告白されて喜んでたはずだったけど。

今朝になったら神くんと付き合ってるって、誰が納得いくのよ」

そっか、オレがしたことは言ってないんだ。

名前ちゃん…。

キミのオレに対する愛を感じるよ。


てっきり人非人扱いされるかと思ったよ。

つい調子に乗って、

「オレのことの方が好きだったんじゃない」

なんて言った。

「ないよ」

「はっきり言うな。

こないだまで応援してくれてなかった?」

「クラスの中でなら神くんが一番いいって思ってたから」

「ありがとう♪」

「…昨日のお昼休み、何があったの?」

「それはプライベートの問題だからな〜。

でもご明察だね。

昨日の昼休みに付き合い始めたんだ♪」

「…何したの?」

「何もしてないよ。

要点だけ言うと、オレが告白して名前ちゃんがOKしてくれたってこと。

名前ちゃんのことはオレが幸せにするから心配しないでよ」

「本当に?」

「もちろんだよ。

何があってもオレから放す気はないし、本人にもそれは伝えたよ。

名前ちゃんを傷つけるようなことをするつもりもないし、これからはオレが守る。

オレのことは徐々に好きになってくれればいいと思ってるし、叶わなければ諦めるしかないけど…。

とにかくオレの気持ちは本物だから心配しないでほしいな」

「なら良いんだけど…。

う〜ん…。

えっとごめんね、変に疑って。

名前の心変わりが心配だったの。

あの子、頑固なまでに一途なところあるから。

じゃあ、これから名前のことよろしくね!

神くんなら間違えないよね♪」

「うん、ありがとう。結婚式には呼ぶよ♪」

「気が早いよ、それ」





オレたちは教室に入りそれぞれの席に戻っていった。

ほんのちょっと嘘を吐いちゃったな、仮の付き合いだってことは言わなかったし。

叶わなければ諦めるとも言ったし。

傷つけるようなことをするつもりはないっていうのは、これからはしないってことでいいよね。


ちょこっと罪悪感もあってこないだ頼まれた牧さん情報を森村に教えた。

「牧さんてサーファーなんだよ」

て言ったら、今日からスクール通う〜って張り切った。





自席に着くと名前ちゃんに

「智世と何話してたの?」

って詰問された。

「もしかしてヤキモチ?」

って聞いたら

「まじめに答えてよっ」

キィッ!ってなった。

最近怒りっぽいな、…あの日が近いのかな。


本当のことを答えても何の支障もないとは思ったけれど、敢えて言わずに 

「バスケ部の先輩のこと聞かれてたんだ」

と言った。

そうしたら急に目を輝かせて

「あ、知ってる!

牧さんていう人のことでしょ、こないだMVPを獲った…」

小声でオレに囁いた。

だからオレも小声で囁き返す。

「そ、だから知ってることをほんの少しね」

「智世、喜んでたでしょう」

そう言ってまるで自分のことのようにニコニコした後、俯き加減になってまた小声で言った。

「私のことなんか言ってなかった?」

「名前ちゃんのこと?」

オレはしらばっくれる。

少し慌てた素振りを見せて

「いいの、何でもない!」

って言った。

「そ?」

オレはそう言って首を傾げ何気ない振りをした。



一限の担当教師が入ってくる。

授業が始まる。
 

“頑固なまでに一途”

森村の言葉がオレの心の深いところに刻み込まれた。





四限が終わって放課後になる、その瞬間にオレは名前ちゃんに声をかけた。

「今日…」

教科書もノートもまだそのまま、オレは待ちきれなかった。

すると名前ちゃんが

「分かってるよ、図書館で待ってるね」

とオレの先手を取って言った。

ニコッと微笑むキミにオレはうっとりする。

気持ちを伝えた今はこういうの隠す必要ないもんね!


「じゃあお先に」

オレの視線に応えることなく姿勢を戻し、机の上を片付け荷物をまとめると早々に退散する。


「待って」

オレは名前ちゃんを引き留める。

なんでそんなに慌てて行くの。

「お昼どうするの?」

腕を掴んで引き戻しオレの傍らに立たせる。

「お弁当だよ」

オレを見下ろす目がきょとんとしている。

「どこで食べるの?」

オレはキミを更に引き寄せて顔を見上げる。

「図書館」

とぼけたことを言う。

「飲食禁止だよ」

オレはクスッと笑って教えてあげた。

「そうだったっけ…。

でも、早く行かないと土曜日は混むって聞くし…」

明後日の方を見ながらちょっと困った様子をする。

オレは更に引き寄せて腰に手を回した。

「じゃあ、図書館の外のベンチで一緒に食べない?

いい天気だし」

オレはキミをうっとり見上げて言った。

「あ、いいよ!」

キミがオレを見下ろして微笑む。

嬉しくて座ったまま抱きついたら、

「こら」

キミはいたずらっ子にでも言うような口調でそう言うと、オレの肩を押して引き離し一歩下がった。

そうされてもオレは喜びの方が勝っていて上目遣いにキミを見遣って

「すぐ準備する」

とキミに微笑んだ。



そんなオレたちの様子を見ていたクラスメートは少なくなかったようで、オレたちが付き合っているという噂はあっという間に広まった。 


オレにとってはその方が都合がいい。


泣いた女の子は数知れず?!

オレとしては泣いた男も結構いたんじゃない?って思ってる。

実際、浅尾も滝田も三上もそれ以来名前ちゃんにちょっかいを出してこなくなったしね。


ルン♪


オレはその三人を頭の中の名簿からも消した。
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