だって好きだから!

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名前ちゃんの体が硬直している。


「…話はいつ終わるの?」

じっとしていたキミが不意にそう言った。

絞り出すような声。

なかなか良い質問だね。

それはキミが…

「私が、うんて言うまで終わらないとか言わないよね」

肩が小さく震えた。

「そうかもね」

キミの頭頂部に顎を乗せてふっと笑って言った。

「じゃあ、話は終わらないじゃない…!」

意志の強さが背中越しに伝わってくる。


「そんなに水島が好き?」

「…今の神くんよりはずっとずっと好き」

「嫌な言い方するな。いつものオレだったら水島よりも好きみたいじゃない。違うでしょ」

「…。神くん、私…神くんとは…」

オレは絡めていた腕を放し、くるりと向きを変えさせた。


顎を掴んで顔をオレに向けさせる。

恐怖にまた顔を歪ませる名前ちゃん。

「どうしても水島と付き合いたいならオレを踏み倒して行きなよ」

「…どうしてそんなこというの?」

「好きだからだよ」

「ムリなの分かるでしょ」

「だから言ってるの」

「お願いだから放して…」

「じゃあ、このままキミをオレのものにさせて」

「や…やめて…!」

「じゃあ、彼女になるね」

「交換条件でもなんでもないじゃない!」

「そお?」

「気持ちがなくても、神くんはいいの?」

「気持ちって?」

「私が神くんの彼女になるって言ったとして…たとえばだよ!
たとえば…、彼女になった私が神くんじゃない誰かを好きでいても神くんは平気なの?」

「誰かって水島だよね、ふふ」

「だからたとえ話だってば!」

「たとえ話にする意味が分からないけど…。
でも、付き合ってるうちにオレを好きになるはずだから」

「すごい自信だね…」

「絶対好きになる!だから、ねっ」

「だからたとえ話だって言ったでしょ!

正直、神くんなら私にこだわらなくてもいくらでもカワイイ子いると思うよ、私なんてつまんない女だよ、ほっといた方がいいと思う。後悔するよ」

「そんなのオレが判断することでしょ。いい加減にしないと犯すよ」

「や、やめて!やめてー!!」

「じゃあ、いいよね」

「何が!」

「このままだと五限に出れないよ。オレ、さぼりたくないんだけど…」

「私もだけどお!」

「そろそろ、いい返事聞かせてよ」

「そろそろ、解放してよ!」

「分かった、じゃあ…」

「きゃあ〜!!放して、放して〜!!
いやあ〜〜〜〜」

オレは無言で名前ちゃんを抱え上げ、ソファーまで連れて行く。

ゆっくり下ろしてソファーに押しつけた。

肩を掴んで…っと


「分かった!分かった!!分かったからーーー!!!」

「♪」

オレは肩を掴んでいた手を放す。


バッ!ダダダッ…


「何してるの」

立ち上がってドアに向かおうとした名前ちゃんの手首をオレはすかさず掴んだ。

「油断も隙もない子だな」

「…」

顔を真っ赤にしてオレを睨んでいる。


その顔もかわいいけどいつもの笑顔の方がオレは好きだな。


「もしかして犯されたいの?
オレはそういうの好きじゃないけど手荒なのがお好みなら…」

「分かった!!本当ーに分かったから…」

大きなため息を一つ吐いて、どさりとオレの隣に座った。


「嬉しいよ♪」


また不意を突いて逃げ出したりしないように
手首は握ったままにする。


「ただ、交換条件をつけていいよね」

「なに?」

「期間は一週間。
一週間で私が神くんを好きにならなかったらそれで終わり」

「一週間は短すぎるよ、半年」

「半年って長すぎるでしょ!」

「じゃあ、五ヶ月」

「変わらないよ、一ヶ月!」

「オレ、バスケで忙しいから普通の付き合い難しいんだけど…。四ヶ月!」

「ひと月半」

「三ヶ月」

「二ヶ月!」

「二ヶ月でいいよ♪」

「二ヶ月たって私が神くんを好きにならなかったらきれいさっぱり解放するって約束して!」

「分かった!
好きだよ、名前ちゃん」

「!?」

オレは名前ちゃんに長ーいキスをした。

「…ッ!
ちょっとぉ…、仮だって言ってるでしょ。仮の彼女と彼だってことちゃんと自覚持ってよね!」

「仮だって彼と彼女だもん」

「…言いくるめられてる気がする…」

「分かったよ。これ以上のことは二ヶ月後にする。でもキスだけはいいよね、もうしちゃったし」

「…。二ヶ月後に私が神くんを好きになってた場合って誓ってよ!?」

「…ん−」

「んーじゃないでしょ!」

「分かったよ、間違えなく出来るって信じてるからね。
じゃ、これはいつしてもいいんだね」

チュッてまたキスをした。

「本当は仮の場合はしないんだからね」

名前ちゃんはそう言いながらもオレのキスを受け入れてくれた。



好きすぎて狂いそう…



「ねえ、水島のことは当然断ってくれるんだよね」

「うん…。そんな不誠実なこと出来ないし」

「嬉しいよ」

「…二ヶ月たったら私の自由にするから」

「…分かってるよ。
仮だけどオレの彼女になったんだから今日からそれらしいことはしてもらうよ」

「何?」

「オレの帰り、待っててくれる?」

「え〜!?」

「門限とかあって無理ならいいけど」

「…学校の図書館で勉強してくるって言えば大丈夫、だよ。
実際そうして待ってるよ」

「じゃあ、練習終わる頃にメールするから、キリのいいところで体育館に来てね」

「了解」

「オレ、基本的にバスケで猛烈に忙しくて全然時間なくてゆっくりデートとかほとんど無理だから、一緒に帰れるだけでも嬉しいよ」

「…あ〜あ。
今年の夏は神くんに捧げるのかぁ。
海もお祭りも花火大会もお出かけも、彼氏と一緒は無理なのかぁ、あこがれてたのにな…」

「そんなにがっかりしないでよ。インターハイでいない期間もあるけど、夏休みはそれでもいい方なんだから。
なるべく時間作るから。
二学期に入ってからの方がもっと時間ないんだから今からがっかりしないでよ」

「二学期はもう彼氏と彼女じゃないでしょ」

「何気にきついなぁ。性格変わちゃったじゃないの?」

「こんな経験したら誰だって変わると思うけど」

「とにかく、ちゃんと彼女やってよね。
仮だからってほかの男と遊んだりしちゃだめだからね」

「友達とは遊ぶよ、そこに男の子がいるのは咎めないでよ」

「…本当はやだけど。
名前ちゃんを信じてるよ」

「…バスケ頑張ってる神くんを裏切らないようにはする」



こうしてオレたちのお付き合い(仮)が始まった。

期間は今日7/2(金)〜二ヶ月後の9/2(木)まで。

何はともあれ、すごく嬉しい♪



「教室もどろ!教室行っても隣同士なんてオレ幸せだよ」

握り続けていた手首を引いて名前ちゃんを引き寄せ、キスをした。

唇をじっくり味わったから、こんなキスはダメって怒られるかなって思ったけど、何も言わなかった。


今度はもっと踏み込んでみよう。
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