だって好きだから!

□♭6
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「良かったら一個食べない?」

お弁当箱を差し出して唐揚げをどうぞって言ってくれた。

あんまりよくしてくれると罪悪感がわいちゃうな…

でも、ニコッ♪

「ありがとう!」

キミのうちの味の誘惑に勝てなくて遠慮なくいただいちゃった。

「うん。美味しい!」

「本当?!実は私が揚げたの。

味付けはお母さんだけど…。ふふ♪」

「料理も上手なんだね」

「そんなこと。

でもね、少しずつ練習してるんだ」

そう言うキミの頬がピンクに染まって、恋する乙女の瞳になったのをオレは見逃さなかった。

まったく…。



なんだかんだとたわいもない話をしながら弁当を食べ終え、オレはペットボトルで、キミは水筒で水分を取っていたとき、

「本題、聞いても良いのかな?」

名前ちゃんがそう言ってオレの目をじっと見た。

オレは頷いて名前ちゃんの顔をじっと見つめ返した。


オレの視線が気になったみたいでパッと頬を押さえ、

「なあに?なんか付いてる?」

視線を外してそう言った。

オレはニコッと微笑んで

「ううん、なんにも。

かわいいから、名前ちゃんが」

と言った。

「え?」

頬に手を当てたまま目を丸くする。

オレの目を覗いて本意を伺っている。


「オレ、名前ちゃんが好きなんだ。

オレと付き合ってほしいんだけど」

まっすぐにキミの瞳を見つめ、オレはそう言った。


「…」


びっくりしすぎて言葉を失ちゃったかな。



「神くん…私…」

しばらく見つめ合った後、ゆっくりと口を開いた。

「なに?」

オレはそんなキミに優しく微笑みかける。

目を合わせていることに耐えられなくなったかのように俯いて、瞳をを左右に泳がせる名前ちゃん。


次の言葉を探しているの?


「あ…私…。

ええと…。

…あのね、神くん…。

私…。

…私、水島くんが、好きなの…」

俯いたまま顔を真っ赤にして、しどろもどろにキミがそう言った。

唇を噛んでる。

血が出たら大変だから、そんなことしないで。



オレは切ない瞳をキミに向けて、

「うん」

と頷いた。

「今日、水島くんに、OKしようと思ってて…」

今にも泣き出しそうな瞳でそう言うキミに、

「そう」

オレはゆっくりと微笑した。

「ごめんね、神くん」

微笑したオレに安心感を覚えたのか、名前ちゃんは同じようにオレに微笑みかけて、けれどとても申し訳なさそうにそう言った。

「なにが?」

オレは微笑したままキミの瞳をじっと見て言った。


目を見開き、またオレの本意を伺うようにする名前ちゃん。

「だから…私、神くんとは…」

さっきまでよりずいぶんしっかりした声を出すようになった。

「付き合ってよ」

キミの言葉を遮ってオレは言った。

あくまで微笑は崩さない。

「…どういうこと?!」

目は見開かれたままキミの顔が歪んでいく。

オレの言ってることが分からないって言いたいみたいだね。


「好きなんだ、誰にも渡したくない」

「でも…」

「オレと付き合ってよ」


ガタッ…

名前ちゃんがソファーから立ち上がる。

体の重心が後ろに傾いちゃってる。

そんなバランスじゃ転んじゃうよ。


「私、戻る…!」

弁当の包みを持って走り出そうとした。

ほら、テーブルに足をぶつけた。

「ッタ、イタタ…」

バッ!

ダダダ…

ガチャッ、ガチャガチャッ…

ドンッガチャ、ガチャガチャ…



「話の途中だよ」

「…!!」

オレはゆっくりとキミの背後に近づき、肩に手をかけて体の向きを180度変えさせた。


やっと捕まえた。


背中をドアにビタッとくっつけてオレを見上げるキミの目は今までで一番大きく見開かれ、その中で瞳が揺れていた。


「オレの彼女になってよ」

オレはキミを見下ろして言った。

「…」

何も答えない名前ちゃん。


ガチャリ…

鍵の開く音がし、名前ちゃんがクルッと体を半回転させドアノブに手を掛けた。


両手で掴んだら開くものも開かないよ。


ガチャガチャ…ガチャ!


運良く開いた扉の隙間に体をねじ込んで飛び出そうとする。

オレはそんなキミの腕を掴み引き戻す。


背後から片腕だけでキミを抱き寄せて、もう片方の腕を伸ばし扉を閉める。

鍵ももちろん閉め直す。


両手でキミを抱きしめて、

「話の途中だって言ってるのに」

耳元でそう囁いた。


キミは体を硬直させている。
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