だって好きだから!

□♭6
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「おはよ、名前ちゃん」

「あ、おはよう神くん」

いつもとちょっと違う朝。

オレから挨拶をする。

名前ちゃんがオレに気づかなかったのは携帯を確認していたせい。


「どうしたの?」

オレが聞く。

「う、うん。放課後話したいって水島くんから…」

「ふ〜ん。

で、昨日はどうだった?」

「え?どうって…」

携帯を閉じながらちょっと驚いた顔をする。

「月曜日と同じケーキ、食べたんじゃないでしょ?」

オレは知らんぷりをしてそんなことを聞く。

「あ、うん。違うの食べたよ」

「そっか、それで?」

「おいしかったよ」

「水島、なんて?」

「おいしかったねって」

「違うよ、名前ちゃんのこと」


頬を真っ赤にして名前ちゃんがオレをじっと見た。

「神くんて何でもお見通しなんだね。

…実は夕べ、メールで告白されたの。

返事は後で直接聞かせてって。

多分そのためのメールだと思う」

そう言って携帯を見つめ、握る手にギュッと力を込めた。


「そっか」

それ以上は聞かなかった。

答えなら分かってる、キミの出す答えは。

水島と念願の両思いで晴れてカップル成立、そうなるのかな。


オレはゆっくりと向き直りじっと前を見つめた。





その後はいつもと変わらない、たわいもない話をした。


一限、二限、三限、四限、いつもと変わらない時間が過ぎていった。


四限が終わったとき、

「オレもちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」

弁当を持って立ち上がる名前ちゃんに、オレは座ったまま声を掛けた。

「…なに?」

たった今立ち上がったばかりのイスに再び腰を掛け、名前ちゃんがオレの顔を覗きこんだ。


「名前ー」

遠くから名前ちゃんを呼ぶ女子の声がする。

手招きをして早く来るよう催促しているようだ。

「待ってー!」

名前ちゃんが声のした方に返す。


「あのさ、ここだとちょっと話しづらいんだけど」

オレは瞳を逸らして首をわずかに傾けて言った。

「…もしかして恋の話し?」

名前ちゃんが目を大きく見開いて瞳を輝かせて言った。

「うん、そう…かな」

答えにくそうにするオレ。

「私なんかでいいの?

…聞くだけなら出来るけど」

「名前ちゃんがいいんだけど」

オレがそう言うと、ニコッして

「ちょっと待ってて!

智世たちに用があるって言ってくるから」

そう言ってオレの元を一旦去り、すぐに走って戻ってきた。




二人で廊下に出て歩き出す。

オレはわざと教室側に名前ちゃんを歩かせた。

そうして水島のクラスの前を通る。


気づくかな?


運良く水島の姿がオレの目に映った。

水島と一瞬目が合った気がした。


「どこ行く?」

名前ちゃんはそんなことにはまったく気づかず、オレを見上げてニコッとそう言う。

水島に背を向けて。


「外だと落ち着かないからバスケ部の部室でいいかな。

今の時間なら誰もいないし」

オレはわざとニコニコして名前ちゃんの顔を覗き込む姿勢をとる。

「いいよ、そこが一番神くんが落ち着けそうだね」

そう言って優しくオレに微笑み返す名前ちゃん。


キミは本当にいい子だね。

オレは悪いオトコだよ。

ごめんね、でも…止められないんだ。




いつも小菅と歩く渡り廊下を名前ちゃんを連れて歩く。

今日もまた雨が降っている、雨音がその激しさを増した。


「土砂降りだね」

名前ちゃんが窓の外を見ながら言った。








部室の扉を開けて名前ちゃんにニコッと微笑み、

「ここだよ」

そう言った。

中をおそるおそる覗いて

「誰も、いないの?」

とキミがオレに伺うように言う。

「うん。いないし、誰も来ないよ」

オレはキミに中に入るよう促した。

「おじゃまします…」

誰もいないって言ってるのにそんなことを言って、一歩ずつそーっと入ってくなんて、カワイイな。

思わず後ろから微笑みかけた。


「そこ、座っていいよ」

名前ちゃんを部屋の中程にあるソファーセットに声だけで誘導する。


「じゃあ、遠慮なく」

そう言って腰掛けるキミの姿を目で追いながら、

ガ、チャ、リ…

そぉーっと部屋の鍵を閉めた。


突然クルッと名前ちゃんが振り返った。


聞こえちゃったかな…


「このテーブル使っちゃっていいの?」

ニコッとしてお弁当を顔の脇にあげて言う。


「どうぞ」


オレはそう言ってソファーセットに近づきキミの向かいに座った。



「ねえ。ここ本当に部室?」

名前ちゃんが周りを不思議そうに見回してそう言った。

「一応。部室だけどロッカールームとは違うんだよ」

オレはキミの疑問に分かりやすく答える。


「まさか、高頭先生の部屋??」

「監督室はまた別、もっと奥にあるよ。

ここはOBとか練習試合の相手とかが来たときに使ってもらう部屋。

奥にはロッカーもあるよ」

背筋を伸ばして目を丸くするキミにオレはクスクス笑って答えた。

「そうなんだ。

てっきりロッカーがいっぱい並んでる部屋を想像してたから」

そう言って、安心したようにニコッとオレに微笑みかける。

一通りの疑問が解決したためか

「神くんはパンなの?」

そう言ってキミがお弁当の包みを広げ始めた。
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