だって好きだから!

□♭4
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その次の日の朝。

いつも通りに始業五分前に教室に滑り込む。

「神くん、おはよう」

って名前ちゃんが言う。

「おはよ」

ってオレも言う。

昨日はあんなもの見ちゃったし今日からちょっと変化を付ける。

おはよ、の後に

「名前ちゃん」

て言ってみる。

いつもは苗字って苗字だったんだからこれは大きな変化だよね。

まさか気づくよね。

気づいてよね。

じゃないとオレ拗ねちゃうよ。

「ねえねえ、今朝のニュース見た〜?!」

…ってオレ本気で拗ねそう。

代わりに森村が振り返って、ニヤ〜っとした。


悪いけどオレはちょっとだけ本気で拗ねた。

キミの言葉は一旦スルーさせてもらうよ。

「昨日、滝田と一緒に帰ってなかった?」

どうしようかと思ってたけど、聞いちゃうことにするね。

「あ、うん、そうそう。

帰りにね、昇降口を出た後で偶然会ったんだ」

ちょこっと忘れてたみたいな言い方をする名前ちゃん。

よしよし!

「家まで一緒に帰ったの?」

オレは更に聞く。

もう気持ちが知れてしまったって構わない。

寧ろそろそろ感じて欲しい!

「なんで分かったの〜?

いいって言ったんだけど、ついでだからって」

名前ちゃんが目を丸くして言う。

なんのついでだか…。

キミの言葉がオレを一喜一憂させる。

「今日は誰と帰るの?」

オレはちょっとイジワルかなと思ったけれどそんな言い方をした。

キミは当然動じないけどね。

「今日は一人だよ、っていうか…しばらく一人なの。

いつもは智世と帰ってるんだけど、昨日から智世、吹奏楽部の助っ人に行くことになって。

智世って中学の時に吹部でテナーサックスやってたんだけど、

うちの高校のテナーサックス担当の人が指をケガしちゃったんだって。

それで…ほら、野球部の県予選も始まるでしょ、急遽…」

「そうなんだ」

オレはその一言にいろいろな意味を込めて言った。

今日こそ森村の存在をありがたく思った日はない。

いなくなった途端にこれではこの先が思いやられるな。

浅尾や滝田がいくらちょっかいを出したところで何もないことは分かってるけど、オレって独占欲の強い人間だし。

ヤツらがやましい気持ちを出さないとも限らないし。

はっきり言って、訳がちゃんとあっての相合い傘だってオレは許せない。

それにとなりのクラスの水島も一応気になる。


オレなんて未だメアドの交換もしてないってのに。

聞くのは簡単だけど今のオレの生活環境だとまともなメル友にはなれないから、今聞くのは得策じゃない。

仕方ない、ここは何も無いことを信じて決勝リーグが終わるまで名前ちゃんを野に放つか…。

さすがに決勝リーグが終わるまではバスケ一色だからね。



え?

まだオレのものじゃないって?

ふふ。

オレのものってオレが思ったら、それはもうオレのものだってこと知らなかった?

言っとくけど、オレのものって決めたものはいくらキミだって譲ったりしないよ。

でも、キミにならいくらでも分けてあげるよ、それがたとえオレの持てるものすべてだとしても、ね!

だから早くオレのものになりなよ♪




「神くん、バスケ部も県予選やってるんでしょ?」

「え?あぁ、うん。そうだよ。

明日が湘北戦」

「湘北って強いの?」

「うん、今年は結構ね。でもオレたちが勝つけど」

「すごい!!頑張ってね」

反則の笑顔を出されてオレは頭の中でグルグルしてたことがすべてどうでも良くなった。

基本的にオレは他のオトコなんてどうでもいいんだ。

キミさえいればね!


今日は土曜日だから半日しかキミの隣にいれない。

明日は日曜だから会えないし…。

その分、月曜の朝は嬉しくてワクワクする。

そういえば、浅尾の件があったのは今週の月曜だったっけ。

来週は何もありませんように。


そうだ、忘れないうちに…。

オレは頭の中にある名簿の、滝田の欄に横線を引いた。

一応ね、一応だよ。
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