だって好きだから!

□♭3
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やれやれ、そう思っていると

「神。今回の件は、まぁアレだけど…。

おまえ、彼女とか作らないのか?」

すっかりユニフォームに着替え終えた小菅が近づいて言った。

「別に、作らないわけじゃないけど」

ボタンを外す指の動きを早めてオレは答える。

「神ならしょっちゅう女の子に告白されるだろ。

気に入ったりしないのか?」

「うーん」

オレが気のないような返事を小菅に返していると、

「神。おまえ、好きな子いるんだろう〜。

おい、誰なんだよ!

オレに言ってみろ。

誰にも言わないから」

武藤さんが不敵な笑みを浮かべながら近づいてきた。

「そうなのか?」

小菅が目を丸くする。

武藤さんが裸になったオレの背中を人差し指で、

ツン、ツン、とつつく。

「…」


「オイッ、オイッッ!

その辺にしとけ。

神が、こ、困ってるだろう!」

牧さんが武藤さんをたしなめる。

「さっきの信長の件で機嫌が悪くなってるだろう」

なんて耳元で囁いている。

牧さん、小声になってませんよ。


牧さんの耳打ちに、ハッとしたような顔をする武藤さん。

「あ、あぁ…そうだな。

プ…プライベートには介入しない主義だよ、オレは!

はは…じゃぁ神、また…」

「彼女になったら紹介しますよ、武藤さんにも」

オレはロッカーを閉めながら言った。

「ほ、ほほう、すごい自信だな」

さすがは神だよな〜なんて言いながら、牧さんと武藤さんが笑っている。

つられて小菅も笑う。

「いったい誰なんだよー早く知りたいぜ」

なあ、なんて言ってまた笑う。

「別に隠してないんで、そのうち」

振り返り、牧さん達と向き合う。

「そんなことなら早く教えてくれよ」

「どんなカワイイ子か、オレは楽しみだな」

「小菅、惚れんじゃねえぞ!」

「それは信長に言ってくださいよ!」

小菅と武藤さんが笑いながら脇を突き合い、牧さんが、オレも交ぜてくれよ、なんて言っている。


「オレのものですから」

静かに言った。

「…えっ?」

三人の声が揃う。

「オレのものだって、言ったんです」

三人ともすっかり顔から笑いが消え、いぶかしい目つきでオレを見る。

「もしかして、もう付き合ってるのか?」

「両思いとか?」

「なんだよ、オレ、まったく知らなかったぜ。

いつも一緒にいるの…」

「完全にオレの片思いです、今のところ」

「…」



「あ、練習開始の時間だ、急ぎましょ!」

時計をチラリと見てオレは言った。

「…お、おぅ…」









その日の練習後、信長が近寄ってきた。

「さっきはスミマセンでした」

「いいよ、気にしてないから。

けど今後は絶対ナシだよ。

結局、信長自身が辛くなるんだから」

オレは信長にドリンクを渡して言った。

「スンマセン、いただきますっ!

…神さん、聞いてもいいっすか」

「なに?」

信長がオレを上目遣いに伺うようにして見る。

「神さんて今、彼女いないんすか?」

「信長とは付き合わないよ」

「だーかーらーぁ!

変な噂が出たら神さんのせいっスからね!!

まったく。

だから、オレじゃなくて…」

顔を真っ赤にして両手を振り上げ、猿みたいに飛び跳ねている、ぷぷっ。

「プレゼントの子?」

ドリンクを飲みながら、信長の方は見ないで言った。

「え、まあ…。

結構カワイイッスよ。

良かったらあの…」

「信長じゃないから興味ないよ」

「…」

顔を真っ赤にして目を見開く信長。

「なんで分かったんすかぁ〜??!」

一段と近づいてオレを見つめてくる。

「信長が動く理由なんてそれしかないだろ」

オレは信長の顔を手のひらで押し戻した。

信長は、

「ああー」

と、ちょっと納得気味。

「ホント、カワイイんすよ。

だから…」

嬉しそうに笑って、オレに好きな子を薦めてくる。

「だったらおまえが付き合えよ。

自分の好きな子、人に薦めてどうするの」

「…」

そんな切なそうな顔するなって。

「オレはその子に興味ないから。

そう伝えてよ」

「悲しむ顔、見たくないっす…」

そう言って信長が俯く。

「その時こそおまえの出番だろ」

「でも…」

「信長ならできるよ」

「神さんっ…!」

「よしよし」

ポンッと信長の頭に手のひらを乗せる。

「わーんっ」

信長が汗まみれ体で、泣きながらオレに抱きついてきた。

うっ…。

「だ、だからっ

オレはオトコはキライなんだってば!!!

は〜な〜せ〜」




遠く、部員たちの声が聞こえる。

「なにやってんだ、あれ?」

「信長って神が好きなんだろ」

「気持ちワリーな」

「オレたちはそうだけどよ」

「神はまんざらでもないんじゃないの?」

「だから彼女がいないんだ…」

「納得、納得」



…。

「今すぐ離れないと殺スよ」

オレは信長のみぞおちに肘打ちを食らわした。
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