だって好きだから!

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それから三日間はいつも通りに過ぎた。

浅尾は相変わらず名前ちゃんに話しかけようとしたり、話しかけたりしていたけど、

二人きりで話してるシーンはあれ以来見ない。

嬉しいことに、浅尾が名前ちゃんに話しかけようとすると、早い段階で邪魔が入るようさえなった。

「浅尾、邪魔!」

「女子トークに入ってこないでよ」

これは名前ちゃんの周りの女子の声。

主な発言者は森村。





「浅尾ー、こっち来いよー!」

「浅尾、頼む、悪いな!」

これは男子の声。

休み時間になり浅尾が一歩席から離れると、こんな声が飛び浅尾がそちらに向かう。

オレも便乗して、

「浅尾ー」

と一回だけ呼んだ。

何を話したんだっけな…

…忘れちゃった。

実際、浅尾は名前ちゃんの件さえなければ明るくていいヤツだ。



さて、女子の声は歓迎できても、男子の声はちょっとどうかな。

人の恋路を邪魔するなんて、理由はただ一つじゃない?


まあでも、せっかく夢中になれる子ができたんだから、多少の障害があった方が燃えるかな。



名前ちゃんもこの三日間、それまで通りの朝を過ごしていた。

オレが教室に入るときにはすでに席に着いていて森村と話してる。

机には一限の準備。

そしてオレに

「おはよう、神くん」

と笑顔を向ける。

「おはよう、苗字」

爽やかに答えて、今日もカワイイね!と心の中でキミにささやく。

まるっきり、いつも通り!!


小さな変化が一つだけ。

オレには挨拶だけして、再び森村の方に向き直るということも今までならあったけど、この三日間はそうじゃない。

名前ちゃんがオレに挨拶している間に、森村が前に向き直ってしまうらしく、そのままオレとのおしゃべりタイムに突入している。

森村がオレに気を使ってくれてるんだろうな。


…それって、浅尾はダメだけどオレはイイってこと?


名前ちゃんの友達にそう思われるのはすごく嬉しい。

牧さんのこともあるかな??!


お陰で三日連続五分間、おしゃべりしてる。

五分てバカにできないよ。

毎日誰かと五分間話し続けなくちゃならないって考えてごらん。

親しい友達となら一瞬かもしれないけど、友達じゃない人だったら?

五分間て長いよね。

オレなんて高頭先生と五分間、顔を突き合わせてたら、なんて思うと……

あの人、サドだから…。

けど、女子には優しいから安心していいよ☆



たった五分間でも、毎日決められたように話してたら、いつの間にか結構親しい相手になっちゃったりするんじゃないかな。

そう、オレたちは日ごとに親しくなっていったんだ。



オレはアレ以来、秘めていたオレの気持ちを少しだけ表現するようになった。

いずれ彼女になる予定だし、徐々にはそういう方向にって元々思ってたけど、そのきっかけになった感じかな。

それにキミはとっても疎いみたいだしね。



例えば…?

例えば、朝の挨拶の“おはよう”の後に必ず一瞬見つめ返すとか、

前を向いて話す名前ちゃんの瞳を、横から見つめたり、

オレが話すときは必ず最後に目を見てほほえむ、これも一瞬。

とかだよ。

まだこの程度だけど。


…あんまり手のうち公開させないでよ、

こういうのは秘密なのがいいんだから!


でも、この程度でも気付く子もいると思うんだけど、森村の言うとおり、まっったく気付かないんだよ、キミって子は。



オレ、頑張る!!



って、心の中で両手の拳を握っちゃったもん。


「…だよね」ニコッ!の後に、「そおそお、それでさぁ〜」なんて更に盛り上がられちゃうと、もうガックリっていうかなんていうか。

そこは、“キュン”ってするところだよって教えたくなっちゃう。


もう一段レベルアップしようかな、アピールレベルを。

テレレレッテッテレー♪ なんちゃってね。







その日の放課後。

部室で着替えをしていると、信長が恐る恐る近づいてきて、

「神さん、コレ…」

と、赤いリボンの着いた紙包みを俺の前に差し出してきた。

「オレ、男に興味ないから」

そう言って、ロッカーに向かって再び着替えを始める。

「ち、ちがうんすよ!!マジでやめて下さい、そういう冗談!!」

慌てる信長。

リアクションがオーバーだな、相変わらず。

「ははは。で?」

「…あ、ちょっと頼まれちゃって…クラスのヤツに。

って、間違いなく女子ですから。

神さんに渡してくれって…。

スミマセン、受け取ってくださいっっ!!」

腰から直角にお辞儀をし、両手で掴んだ包みをオレに向かって差し出している。

「…困るんだけど」

「お願いします!!」

「分かった、じゃ、信長にあげるよ」

「神さん…」

「部則で決まってるし…信長も知ってるだろ。
それに、見ず知らずの子からの物は…」


「清田、顔をあげろ。
神を困らせるな。

確かに部外者からの物品の受け取りは禁止になっている。
金銭然り、承知の通りだ。

そう言って明日にでも本人に返すんだな」

見かねた牧さんが、オレたちの間に入った。

今の日本語、信長に伝わったかな?

「牧さん…」

信長がしょんぼりする。

オレを子犬のような目で見てくる。

「悪いけど、今回だけとかないから」

「うう、神さん」

「まだなんか、用?」

そう言ってチラリと信長を見ると、

「ス、スミマセンでしたぁ〜〜〜」

と大きく頭を下げて、部室から慌てて出ていった。
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