だって好きだから!

□♭2
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プリントはすっかり埋まってしまい、楽しかった時間も終わりに近づいている。

教室内のざわめきが大きくなり始めた。


「神くん。今朝、具合でも悪かったの?」

名前ちゃんがオレの顔を覗き込むようにして言った。

「あ、ごめん、オレ、変だった?」

シラを切る。

「うん、ちょっと。
機嫌が悪そう…っていうか。ちょっとだけ、だけど」

と、遠慮がちに言った。

正確に言うと、機嫌は良くなったけど直ってはいない。

浅尾が名前ちゃんに話しかけるのを止めない限り、オレの機嫌が直ることはない。



浅尾なんて無視すればいいんだ。



「試合が近いからかな。

決勝リーグって言って、全国大会の出場権を懸けた大会があるんだけど、
オレ、スタメンだし緊張してるのかも」

まるきり嘘ではないけど、今朝のご機嫌斜めの原因としてはまるきり嘘だ。

「そうだったんだ。
じゃあ、むやみに話しかけたりしてごめんね」

オレの吐いた嘘に謝っている。

さすがに罪悪感…。

むやみになんて話しかけてもないのに。

神くんに悪いから、なんて理由で、明日から毎日席にいなかったら困る。

「ううん、今朝は特別緊張してたんだ。
だから、全然だよ。
ごめん、オレこそナーバスなとこ見せて。
朝も毎日楽しいよ、話しかけてもらうのすごく嬉しいし。

そういえば…今朝は珍しく席を外してたけど、どうしたの?」

白々しく、今朝のことを聞いてみる。

「あ、なんかね、浅尾くんが通ってる予備校に私の中学の時の同級生が入ったみたい。
女の子なんだけど、浅尾くんの制服見て話しかけてきたみだいだよ。
どういう子かって聞かれたけど、あんまりよく知らないからなあ」

「盛り上がってたみたいだけど?」

さっきはどこにいたかも知らないようなふりをしたのに。

「うん。良かったら一緒にどう?って誘ってくれたから、
どんな感じなの?って聞いたら、先生がおもしろいんだって。

ふふ。

いろいろ教えてくれたんだけど、本当におもしろかったよ」

顔をほころばせて話す。

「入るの、予備校?」

名前ちゃんに合わせて笑顔を作り、オレにとって最も肝心なことを聞く。

キミの笑顔は好きだけど、浅尾を思いだして笑うキミはイヤなんだ。

「ううん、入らないよ。
でも、様子が知りたくて。
浪人するかもしれないし」

アハハと笑った。

その笑顔にはオレも満面の笑みで返す。

「エスカレーターで大学行くんじゃないの?」

「どうかな?!」

名前ちゃんが小さく首を斜めに傾けた。


「…」

これで、浅尾はナシっと。

オレは頭の中にある名簿の、浅尾の欄に横線を引いた。
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