だって好きだから!
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そんな状態で3時限めまで過ぎた。
1、2時限の休み時間も、2、3時限めの休み時間も、3、4時限めの休み時間も、
名前ちゃんはオレに話しかけようとしてくれたけど、
席を早々に立ったり、課題を慌ててやっている振り…実際解いてるけど…をしたりして、
名前ちゃんを一方的に避けていた。
名前ちゃんはその度に不思議そうな顔をしていたけど、休み時間が終わる頃には特に気にしてる様子はなかった。
どの休み時間も森村や女子達と集まって会話を楽しんでいたし、浅尾が性懲りもなく話しかけようとしたりして、
名前ちゃんの周りはいつにも増して華やいでいた。
そして今は4時限め、世界史の時間。
「神くん。教科書、一緒に見せてくれる?」
不意に話しかけられ顔を上げると、伺うようなキミの瞳がオレを見ていた。
「いいけど…」
オレは教科書を机と机のちょうど真ん中におく。
「オレ今、資料集使ってるから好きに使っていいよ」
ニッコリほほえみかけた。
「ありがとう」
と言って、教科書を手に取りパラパラとめくる。
そして、
「…おかしいなぁ、休み時間が始まる前に机に揃えて置いたと思ったんだけど…」
と呟いていた。
四時限めの世界史が自習になるという知らせは、今日の日直の一人である小菅がもたらした。
「プリントやっとけってさ。
教科書や資料集を見て書き込んでいいけど、後でテストするから確実にやっとけって」
さっきの休み時間、小菅と過ごしていたオレはこの情報をいち速く掴んでいた。
そして、一足先に自席に着き、名前ちゃんの机の上から教科書を失敬したのだ。
分かってる、ちゃんと後で返すって。
昼休みにでも机に入れとくよ。
…オレも悩んだんだよ、自分が忘れたふりをするか、名前ちゃんのを隠すか…。
それで、情けは人の為ならずって言うし、ここは一つ恩を売っておくかって。
悩んだ時間?
二秒かな、バスケやってるお陰で、瞬時の判断力は相当、鍛えられてるみたいだね。
根本からして間違ってる?
でも中学の時に
「教科書忘れたからお願い見せて」
って隣の子に言い続けて、
不審がられて嫌われたヤツがいたんだよ。
オレはそうなりたくないし…。
オレって忘れ物しないキャラだし。
そういうわけでこういう状況なんだ。
「あ、オレもちょうどそのページ見たいんだけど」
名前ちゃんが開いたページを指して言う。
「あ、うん、じゃあ…」
教科書をオレの方にスライドさせた。
「あ、真ん中でいいよ」
教科書の位置を若干オレ寄りに置こうとする名前ちゃんに、オレは笑顔で言った。
至福の時間、ていうんだろうな。
教科書を押さえる華奢な指、髪を耳にかける指使い、教科書を覗くときのおおきな瞳、
存在を主張するかわいい耳、鼻孔を擽るシャンプーの匂い。
一つの教科書を一緒に見るってこんなに楽しかったんだ!
今なら分かるよ、中学の時のアイツの気持ち。