カルピスソーダ
□♯28
1ページ/2ページ
伊藤の話によると、名前ちゃんは今度の土曜日はやはり学校で、通常授業の日らしかった。
普段通りに行動すれば、12時半に授業が終了してそのまままっすぐ帰宅するとのことだった。
いろいろと考えた末、オレは名前ちゃんの学校の最寄り駅で待ち伏せすることにした。
校門前じゃ迷惑を掛け兼ねないし、自宅付近じゃストーカーと間違われても困るし。
頑張ってます!感を出したいから、向こうの陣地に単独で乗り込むのがいいだろうって考えた結果、出した答えがそれだった。
…ありがちかもしれないけど…
結局、名前ちゃんからはオレの謝罪メールに対する返信はなかった。
オレもそれきりメールはしていない。
花形から、
「気持ちは分かるが、今は堪えろ」
と言われたし、オレも一旦、時間と距離を置いた方がいいと思ったからだ。
バスケ部の連中はオレをとても気遣ってくれていた。
心底いいヤツらだってしみじみ思わせられるんだ。
高野のヤツは、
「神社でもらってきた」
と言って、恋愛のお守りをオレにくれた。
現実主義者のオレとしては、胡散臭っと思いながらも、
「ありがとう」
と、受け取った。
永野は、
「おまえの原点だろ。初心忘るべからずだ」
と言って、毎日のようにカルピスソーダを差し入れてくれる。
オレはありがたく頂戴して、カルピスソーダを飲みながら名前ちゃんを思い出した。
一志は、
「オレは読んだことないけど…」
と言って、恋愛バイブルなる本をくれた。
パラパラっと捲ってみたら、“モテる男になるには…”ってことが最初から最後まで書いてあって、モテてるオレにはあんまり必要のない内容だった。
それでも念のため読破したが、要するにポジティブに生きろってことが書かれてあった。
一応、為になった。
そんなみんなの熱い友情が、この一週間のオレを支えてくれていた。
そして、なんだかんだで土曜日がやってきた。
10月の第一土曜日。
さすがに今日は朝から緊張が止まらなかった。
何度も深呼吸をして、大きく息を吐いた。
寒くもないのに時折からだが勝手に震えた。
そんなオレに伊藤が小走りに近づいてきて、ちょっと涙目で、
「すみませんっ!
今日、風邪で学校休んじゃってるんですよ、姉…」
そう言って、申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
オレは不意の事態に胸を掴まれたかのように驚いたが、
「…そ、そうか…。仕方ないよそれは。
仕方ないから気にすんなよ」
と言った。
ちょっとだけホッとしたような、やっぱり残念なような半々の気持ちが混じり合っていた。
ただ…
“こんな状況でも、やっぱりオレは名前ちゃんに会えることを楽しみにしていたんだ”
と思った。
まさかの事態によってまた、自分の気持ちをまざまざと知ることとなった。
そしたらすごく切なくなった。
一志が、
「風邪って、いつからひいてるんだ」
伊藤を気遣うようにそう尋ねた。
すると伊藤は、本当に申し訳なさそうに、
「月曜の夜からちょっとだるいって言ってたんですけど、昨日までは登校してたんです。
今朝、熱が出ちゃったみたいで…」
ペコペコ頭を小さく何度も下げながら言った。
「そっか…。
こっちは大丈夫だから、お姉さん大事にしろよ」
一志がそう声を掛けると、伊藤は、
「すみません、すみません」
と、また何度も頭を下げて去っていった。
オレは熱に浮かされる名前ちゃんを思い浮かべ、膝を抱えた。
辛かったりしたら…。
代わってやりたいけど…。
どうか早く良くなって…。
そんなオレの傍で、
「名前ちゃん、風邪かあ」
「ほら、ストレスがあったから…」
「なるほど」
「ストレスの原因は元気なのにな」
高野、一志、永野、花形がヒソヒソと話し合っていた。
おれのせいかよ!?
まったく、少し見直すとコレだから…。
とにかく、再度計画を立て直さなきゃいけないことになった。
来週の土曜は午後練だし、平日は帰りの時間が全く合わない。
時間もそうは置けないし、やっぱり、呼び出すほかないんじゃないかと思っていた。
オレはうーん…と考え倦ねることに三日を要していた。