カルピスソーダ

□♯28
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伊藤の話によると、名前ちゃんは今度の土曜日はやはり学校で、通常授業の日らしかった。

普段通りに行動すれば、12時半に授業が終了してそのまままっすぐ帰宅するとのことだった。

いろいろと考えた末、オレは名前ちゃんの学校の最寄り駅で待ち伏せすることにした。

校門前じゃ迷惑を掛け兼ねないし、自宅付近じゃストーカーと間違われても困るし。

頑張ってます!感を出したいから、向こうの陣地に単独で乗り込むのがいいだろうって考えた結果、出した答えがそれだった。



…ありがちかもしれないけど…



結局、名前ちゃんからはオレの謝罪メールに対する返信はなかった。

オレもそれきりメールはしていない。

花形から、

「気持ちは分かるが、今は堪えろ」

と言われたし、オレも一旦、時間と距離を置いた方がいいと思ったからだ。






バスケ部の連中はオレをとても気遣ってくれていた。

心底いいヤツらだってしみじみ思わせられるんだ。



高野のヤツは、

「神社でもらってきた」

と言って、恋愛のお守りをオレにくれた。

現実主義者のオレとしては、胡散臭っと思いながらも、

「ありがとう」

と、受け取った。



永野は、

「おまえの原点だろ。初心忘るべからずだ」

と言って、毎日のようにカルピスソーダを差し入れてくれる。

オレはありがたく頂戴して、カルピスソーダを飲みながら名前ちゃんを思い出した。



一志は、

「オレは読んだことないけど…」

と言って、恋愛バイブルなる本をくれた。

パラパラっと捲ってみたら、“モテる男になるには…”ってことが最初から最後まで書いてあって、モテてるオレにはあんまり必要のない内容だった。

それでも念のため読破したが、要するにポジティブに生きろってことが書かれてあった。

一応、為になった。



そんなみんなの熱い友情が、この一週間のオレを支えてくれていた。






そして、なんだかんだで土曜日がやってきた。

10月の第一土曜日。

さすがに今日は朝から緊張が止まらなかった。

何度も深呼吸をして、大きく息を吐いた。

寒くもないのに時折からだが勝手に震えた。



そんなオレに伊藤が小走りに近づいてきて、ちょっと涙目で、

「すみませんっ!
今日、風邪で学校休んじゃってるんですよ、姉…」

そう言って、申し訳なさそうに深々と頭を下げた。

オレは不意の事態に胸を掴まれたかのように驚いたが、

「…そ、そうか…。仕方ないよそれは。
仕方ないから気にすんなよ」

と言った。

ちょっとだけホッとしたような、やっぱり残念なような半々の気持ちが混じり合っていた。

ただ…

“こんな状況でも、やっぱりオレは名前ちゃんに会えることを楽しみにしていたんだ”

と思った。

まさかの事態によってまた、自分の気持ちをまざまざと知ることとなった。

そしたらすごく切なくなった。



一志が、

「風邪って、いつからひいてるんだ」

伊藤を気遣うようにそう尋ねた。

すると伊藤は、本当に申し訳なさそうに、

「月曜の夜からちょっとだるいって言ってたんですけど、昨日までは登校してたんです。

今朝、熱が出ちゃったみたいで…」

ペコペコ頭を小さく何度も下げながら言った。

「そっか…。

こっちは大丈夫だから、お姉さん大事にしろよ」

一志がそう声を掛けると、伊藤は、

「すみません、すみません」

と、また何度も頭を下げて去っていった。





オレは熱に浮かされる名前ちゃんを思い浮かべ、膝を抱えた。



辛かったりしたら…。

代わってやりたいけど…。

どうか早く良くなって…。



そんなオレの傍で、

「名前ちゃん、風邪かあ」

「ほら、ストレスがあったから…」

「なるほど」

「ストレスの原因は元気なのにな」

高野、一志、永野、花形がヒソヒソと話し合っていた。



おれのせいかよ!?

まったく、少し見直すとコレだから…。



とにかく、再度計画を立て直さなきゃいけないことになった。

来週の土曜は午後練だし、平日は帰りの時間が全く合わない。

時間もそうは置けないし、やっぱり、呼び出すほかないんじゃないかと思っていた。

オレはうーん…と考え倦ねることに三日を要していた。
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