カルピスソーダ

□♯27
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「それで、何した!?」

花形がメガネの奥で目を見張った。



いつものラーメン屋。

日曜の昼。

名前ちゃんとケーキを食べに行った次の日。

いつものメンバー。


オレは言葉に詰まって、

「だから…その…」

とモゴモゴした。

「まさか…強姦!?」

高野が目を剥いて叫び、その口を慌てて一志が押さえた。

オレが黙っていると、

「おいっ!まさか…」

永野がアワアワして言った。

「んなわけないだろ」

オレはぼそりと言った。

オレの一言で、一同は胸を撫で下ろした。

一体、オレのことなんだと思ってんだ…。

「オレは名前ちゃんが他の男と付き合ったら…という妄想に囚われて…。

名前ちゃんを誰にも取られたくない、オレだけのものにしたい、一刻も早くそうしたいと思ったんだ…」

そしてオレは再び語り始めた。







オレは名前ちゃんにどうしても自分の気持ちを伝えたくなった。

どうしたってオレのものにしたくて堪らなくなって…。

“告白されたら付き合っちゃうかも”

と言っていたし、そしたらこっちのもんだし…なんて他力本願的な気持ちもオレの背中を押して。

夕日を浴びる名前ちゃんの瞳や唇は悩ましいほど艶めいて、オレの理性は麻痺寸前だった。

心臓はバクバクだったけど、何故か心は落ち着いていた。

それは本当に不思議だと思う。

そしてオレは正面を向いたまま口を開いた。

「驚かせたら悪いんだけど…」

オレがそう言うと名前ちゃんは、

「なに?」

と、これから告白を受けるなんて到底思いもよらないと言った声を出した。

オレは一瞬心が折れそうになったけど、覚悟を決め直し、名前ちゃんに向き直った。

そして単刀直入に、

「オレ…名前ちゃんのこと好きなんだ」

と言った。

「…え?」

オレを見つめていた名前ちゃんの瞳の瞳孔がピクリと反応し、体がビクッとなった。

「オレと付き合ってくれない?」

オレは名前ちゃんの反応には気付かない振りをして、真っ直ぐに言った。

「…」

名前ちゃんは固まったようになって、オレをジッと見つめた後、瞳をゆっくりと逸らしていった。

「オレが好きだったの、気付かなかった?」

オレは逸らされた瞳を追いかけた。

名前ちゃんの視線は完全に地面に落ちていた。

名前ちゃんは言葉を失ったかのように何も答えない。

夕日が向こうの木の向こうへ隠れたのか、急に辺りがスーッと暗くなり始めた。

オレは何とも言えない心細さを感じて、

「やっぱり驚かせちゃったか…ごめん」

俯いて謝った。

すると、

「あの…うん…驚いちゃって…。だって…。

だって、なんで私のことって…」

しどろもどろに名前ちゃんが言った。

膝の上で両手がギュッと握られているのが分かった。

オレは、

「なんでって………。

最初に見たときからかわいいと思っていたし…」

“かわいい”と言うときに急にカアッと顔が熱くなるのを感じた。

「私が…?」

名前ちゃんはパッと顔を上げると、信じられないとでも言うように目を見張った。

オレは信じて貰いたい一心で、

「かわいいよ、すごく!すごくかわいい!」

名前ちゃんの瞳を覗き込んで言った。

名前ちゃんは熱い物に触れた指先のように、目をパッとオレから逸らすと、

「うそ…」

と言った。

オレは自分の言葉をどうしても信じて貰いたくて、多少ムキになった。

名前ちゃんの肩を両手で挟むように掴み、オレの方に向けさせると、逸らされた瞳を見つめて、

「嘘じゃないよ、ずっとそう思ってた。
誰が見たって名前ちゃんはかわいいよ。
知らないのは名前ちゃん自身だけだよ」

そう言った。

名前ちゃんはビックリしたように強ばった顔で、

「あ、り、がとう…」

と言った。

顔は真っ赤で、オレの見つめるその瞳は潤んでいた。

今思えば、オレに突然そんなことをされて、ただただ恐怖だったのかもしれない。

でもそのときのオレはそんな風には取れなくて、真っ赤な顔は恥ずかしさ故、潤んだ瞳は嬉しさ故だと思ってしまった。

極めつけに、艶やかな唇から放たれた“ありがとう”という言葉は、オレへのGOサインと取ってしまったんだ。

そんな思考のせいでオレの脳は完全に麻痺した。

潤んだ瞳と艶やかな唇に吸い寄せられたオレ。

同時に名前ちゃんを引き寄せ、そっと唇を合わせた。

その時のオレの心持ちは、なんて言い表したらいいか分からない。

勝手だけど、念願叶ったような、長年求め続けた物をようやく手に入れたような…。

名前ちゃんからはいい匂いがして、自分が今どこにいるのかも分からなくなりそうだった。

体が熱くなるのを感じて、もっともっとって…。

そして柔らかい上唇を吸った。

名前ちゃんは体も唇も硬直したかのようだった。

オレはそんな名前ちゃんがかわいくて、キスをしながら腕を背中に回し抱きしめた。

そして下唇を吸った。

名前ちゃんの体はビクッと痙攣したようになり唇は、“あ”の形に小さく開かれた。

オレはそれを良い反応と取った。

オレは心も体も嬉々として、背中に回していた腕の片一方を名前ちゃん後頭部に当てた。

そして“あ”の形に開かれた唇に舌を押し込もうとしたその時、

名前ちゃんが突然首を左右に振って、両手で力一杯オレの胸を押した。




そのとき初めてオレは気付いた。

いけないコトをしたんだと…。

オレは我に返ったように名前ちゃんから離れ、

「ご、ごめん」

と謝った。

「な…な…」

名前ちゃんは震えた声でそう言うと、バッと立ち上がって走り出した。

オレは一瞬呆気にとられてしまい、その後ろ姿をじっと見つめていたけれど、ハッと立ち上がり追いかけた。

まあ、すぐに追いついて、

「待って、待って!」

と横に並んで声を掛けた。

そして肩をグッと掴んで抱きとめた。

「放して」

名前ちゃんはオレの腕の中で切れた息でそう言った。

オレは名前ちゃんの言葉とは裏腹にギュッときつく抱きしめると、

「ごめん、本当にごめん。嫌ならもうしない。

だから逃げないで…。好きなんだ…本当に好きなんだ…」

名前ちゃんの側頭部に頬を擦り寄せた。

名前ちゃんはオレの腕の中で、ブルッと身震いをした。

オレはそんな名前ちゃんを守ってやりたくて、ギューっと抱きしめた。

どのくらいそうしていただろう。

強ばっていた名前ちゃんの体から、スーッと力が抜けていき、オレの胸に頭をもたれ掛けた。

そして、

「藤真くん、逃げないから。

でもね、もう帰らないと…」

と言った。

オレは名前ちゃんを解放し、家まで送っていった。

その間ずっとオレたちは無言で、オレは耳が熱くて熱くて堪らなかった。
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