カルピスソーダ

□♯26
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絶句したんだろうな、オレは。

本当のことだったし、否定の余地もないし。



オレの沈黙に気付いた名前ちゃんが、ゆっくりと顔をオレに向けた。

そして、

「あ…。悪いことじゃないと思うよ。

藤真くんカッコイイし優しいし、モテないわけないよ」

無理に作ったような笑いを浮かべた。

その笑いが、オレを突き放しに掛かったようなそんな風にオレには感じられて、妙に引っ掛かった。

ここでオレが、そうですかって引いたら、一生お友達決定っていうか、名前ちゃんを手に入れるチャンスを一生失うような気がした。



オレがモテるのは事実だし、謙遜めいたことをいうのも白々しい。

優しくしてるのは名前ちゃんだからだ。

オレ自身、意地悪な人間だとは思わないけど、女子に特別優しくしたことなんて多分ない。



誤解だけは解きたい、オレはただただそう思った。

「オレ、確かに告白とかされるし、モテないわけじゃないと思う…。

確かに興味本位で付き合ったこともある。

結局、バスケで忙しくてまともに付き合えなかったし、自分から会いたいって思うこともなくて…。

好きじゃない子と付き合うのって違うって思うようになって…。

名前ちゃんと出会う前から今まで、もうずっと誰とも付き合ってないよ。

それに、愛想振りまくの苦手だから好意の伝え方とか意思表示とか分からなくって」

ぼつり、ぼつり、オレは言葉を紡いだ。

嘘も飾りも嫌だった。

名前ちゃんはじっと耳を傾けて、オレが言葉を切るたびに、

「うん、うん」

と頷いてくれた。

そして、

「噂、真に受けたりしてごめんね。
すごく変なこと言っちゃったよね…ごめんなさい」

しごく申し訳なさそうに謝った。

噂って言うか、事実だからいいんだけど…と思いつつ、名前ちゃんは言葉を選んでオレに伝えたけど、もっと露骨な言われようだったのかも…とちょっと思った。

「オレも好きじゃない子と付き合ったりしてきて、それは反省すべき点だと思ってるから」

オレがポリポリと頭を掻きながらそう言うと、名前ちゃんは安心したようにニコリと笑って、

「噂を聞かなくても、藤真くんて人気あるだろうなとは思ってたよ」

と言った。

そして、

「私も告白とかされたら、浮かれて付き合っちゃうかもしれないし」

エヘヘと笑った。

そんな名前ちゃんの横で、オレの心臓がドキンッ!!!とした。



告白されたら、浮かれて付き合うの?

告白したら付き合ってくれるの??



それがオレへの慰めなのか、名前ちゃんの本心なのか表情からは読みとれなかった。

一瞬の喜びの後、言い知れぬ不安のような焦りのような、さっきまでとは似て非なる感情がオレの中に生まれていた。



ウッカリしてると誰かに取られる…

かもしれない。



ふっとそう思った。

そう頭の中で言葉にした瞬間に、急激にそれが真実のように思われてきた。

どうして今まで名前ちゃんを野放しにしてきたんだろうと思った。

何ヶ月もよくも平気でいられたもんだと、今日までの自分がとても信じられなかった。

名前ちゃんを狙っている野郎はこの世にごまんといるだろうと思った。

そして、今まで無事だったのはこの恐ろしいまでの鈍さ故と気づき、オレはそのことに深く感謝した。

だけどそれも時間の問題だろうな。

いずれのうちに、図々しい野郎が図々しく名前ちゃんに近づいて、図々しくも告白したりして…。

名前ちゃんは真っ赤に顔を染めて、

「私で良ければ…」

なんて謙虚に言って、

「キミがいいんだ」

なんて野郎が言って、

「お願いします…」

なんて、名前ちゃんは瞳をウルウルさせて…。

「じゃあ、キスしてもいいかな!?」

なんて野郎が言って、

「え…」

なんて名前ちゃんが戸惑ってるうちに、

「オレたち付き合ってるんだから…ネ」

なんて野郎の汚らわしい手が名前ちゃんの腰を抱き、顎を引き上げて、純潔の象徴みたいなあの唇を…



この強姦がーーーー!!!

そんなの、オレは絶対許さん!!!



そんなことになるくらいならオレが名前ちゃんを…!!!!!
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