カルピスソーダ

□♯26
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オレは今、名前ちゃんと公園を歩いている。

なにか意思表示をしなくちゃ…と考えて考えて考えて………



ドツボにはまっている。



駅で待ち合わせをして、一志に貰った割引チケットの店へ行き、オレはチーズケーキ、名前ちゃんはモンブランのセットを頼んで、二人で食べた。

名前ちゃんは終始ご機嫌で朗らかで、ケーキが運ばれてくると、

「わあ」

と言って喜び、一口食べて、

「美味しい〜」

と言ってニッコリした。

そして、

「さすがだよね〜、やっぱり違うよね〜」

一口食べてはそう言ってため息を吐いていた。

名前ちゃんのかわいさに心底感心するも束の間、意思表示のことがすぐに脳内を占領してしまう。

当然、ケーキもじっくり味わえなくて、

「え?…う、うん…」

と、相づちを打つのが精一杯だった。

紅茶を飲んでいるときも、名前ちゃんが学校のことなど近況をご機嫌で話してくれていたので助かった。

オレは、

「ア、ハハ…」

なんて愛想笑いを浮かべるのが精一杯で、話の内容を全く覚えていない始末だ。

店を出るとき名前ちゃんが、

「藤真くん、元気ないよね?今日はこれで…」

と言い出した。

オレは焦って、

「そ、そんなことない!そんなことないから!!

えと、あの…、良かったら腹ごなしに散歩でも…。

公園でも歩かない?」

と妙に大きな声で言ってしまって、レジにいたウェイターに、

「クスッ」

と笑われた。

名前ちゃんは気圧されたように、

「うん…。いいよ」

と、目を丸くしてちょっと驚いた顔で言った。








そして今、二人で公園を歩いている。

時刻は四時を回ったところで、急に秋らしくなってきた今日この頃は、もう夕方の気配を濃厚に漂わせていた。



早くしないと…



妙な義務感に後押しされながらオレはいた。

考えれば考えるほど頭は機能を失っていき、体はカチコチに固まって、鼓動だけが時々ヤケに速まった。

二人の会話は相変わらず名前ちゃんが提供し続けてくれて、それに上手く乗れないこともすごく申し訳なく思いながらも、何事にも集中できないオレがいた。



告白するわけでもないのにな…



そう思った途端、心臓がバクバクバク…!と今日の最大音を鳴らした。

思わず胸を押さえたら、名前ちゃんに気付かれて、

「気持ち悪いの?ベンチで休もうか?」

と心配されてしまった。

この際、その話しに乗ってでも時間稼ぎをしたいところだったから、ベンチで休むことにした。

ベンチに並んで腰掛けてふと周りを見回すと、周りに誰もいなかった。

適当に歩いていたら、いつの間にか奥の方へ来てしまっていたらしい。

腕時計を見ると四時半だった。

「夕焼けがきれいだね」

空を見上げて名前ちゃんが言った。

公園の木々の葉は相変わらず青々としていたけれど、確実に季節は移ろい、空の色は秋の到来を告げていた。

「秋か…」

オレはポツリと呟いた。

「そうだね」

名前ちゃんが答えた。

「きれい…だね」

オレはまた呟いた。

「うん。とっても」

表情を見なくても微笑んでることが分かる声だった。

オレは見上げているうちに、思考のほとんどが空に吸い込まれていってしまったかように無心になった。

「きれい、だな。見れて良かった。

名前ちゃんと一緒に…」

空に吸い上げられるように、心の声がそんな言葉になって出た。

発したオレ自身がビックリして、ハッ!思わず口を押さえたほどだった。



ドキドキドキ…



鼓動の速まりと同時に顔面が熱くなる。

俯いたまま、顔を上げられない。

名前ちゃんが、

「…え?」

そう言って息を止めたのが分かった。

膝に乗せられた手がキュッと握られ、気配だけで全身が強ばったのを感じた。

気まずい沈黙がオレたちの間に流れる…そう思った瞬間に、

「ふふっ」

と名前ちゃんが笑った。

そして、

「藤真くんがモテる理由、分かる気がする」

クスクス笑った。

「え?」

オレは顔を上げ、名前ちゃんを凝視した。

「だって、そういうこと言われるとすごく嬉しいもん。
女心を分かってるって言うか…」

罪なことを罪のない笑顔で言う名前ちゃん。

オレは驚いて、

「オレ、誰にでもこういうこと言う訳じゃないけど…」

と言った。

「ウソ!?」

驚いた顔をする。

「なんで嘘?」

「だって…」

名前ちゃんはオレが凝視し続けたせいか、不意に自信をなくしたように俯いた。

そして、

「ごめん…」

と言った。

オレは言葉の意味が分からなくて、つい強めの口調で

「ごめん…て、なに?」

と言った。

名前ちゃんは俯いたまま、

「怒らせるつもりじゃなかったんだけど…」

と言った。

オレは慌てて、

「怒ってなんか…。だってなんだか、オレのこと…」

と弁明した。

オレのこと、誤解したイメージ持ってる?

名前ちゃんは俯いたまま、恐る恐るといった様子で、

「あ…。あのね。学校の子が、藤真くんのことを翔陽の友達に聞いたって…」

と言った。

「そしたら?」

オレは嫌な予感で高まる胸を押さえながら、極力冷静に言った。

怒ってるなんて思われたくない…。

名前ちゃんは少し考えるような素振りを見せてから、

「…すごくモテてて、女の子には事欠かないって言ってたって…」

とても申し訳なさそうにそう言った。



「…」
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