カルピスソーダ

□♯25
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オレは家に帰って早速メール文作成に取りかかった。

あれからひと月も経っちゃって、照れくさいような白々しいような、何とも言えない感情に支配されながらもなんとか文章を打った。



でもさぁ、名前ちゃんからは一度もメールも送って来ないわけだし、オレなんて…なんてふて腐れてみたりしながら。

でもでも、極度の恥ずかしがりかもしれねえじゃんっなんて思い直したりしながら。



最終的には、あんまり遅い時間の送信にならないようにって気遣うあまり、ドタバタと送信ボタンを押したものだから、納得いく文章かどうかとかは二の次になっちゃったけど。

例のごとく、送信した途端に返信が気になって仕方ないので、風呂に入ったりして時間を潰して気を紛らわせた。

風呂から出て冷水を飲みながら、ふと思った。



やっぱり、断られたらキツイだろうな…



オレはもう名前ちゃん以外には考えられないし、オレの将来も名前ちゃんに照準を合わせて進行中なんだけど。

そんなこと名前ちゃんからしたら知ったこっちゃないわけだし…。

重すぎて恐いって思われるかもしれないし…。

どうしたってなんとかなりたいけど、努力でなんとかなるもんでもないかもしれないし…な。



オレって根暗…



気分が落ちたところで、部屋に戻って受験勉強して気を紛らわせることにした。

何かに夢中になってないと堪らなく苦しい…。

部屋に戻って、取り敢えず携帯を確認。

期待しないで、でもほんのちょっと(?)期待しながら携帯を開く。







来てる…名前ちゃんから返信が来てる!



直ぐさま受信メールを開封したいところだけど、無防備な心が傷つかないように一呼吸おいた。

スーハースーハー…三呼吸くらいして、ポチ、ポチっと携帯のボタンを押して、メールボックスの中の名前ちゃんからのメールを開封する。





お誘いありがとう。

私なんかでいいのかな?

そのケーキ屋さん知ってるよ、とっても美味しいよね!

ケーキセット半額券なんてすごいね、お値段高いからケーキセットでもランチ一回分はするもんね。

最近、課外や模試が多いんだけど、藤真くんと予定が合う日があるといいな。





というような文章が書いてあった。

ということは…一応オッケーってことだよな!?

文の終わりにはいちいち絵文字みたいのが入ってるし、素直に誘いに乗ってくれたってとっていいんだよね!?




そしてオレは、二週分くらいの週末の予定を送った。

平日は無理だから、土日の予定ばかりだったけれど。

ささっと送信して、オレはご機嫌で机に向かっていた。

たとえ予定が合わなかったとしても、断られてないって事実がオレを勇気づけ、心を明るくした。

オレが送信してから十分ちょっとたった頃、名前ちゃんから返信がきた。

来週末の土曜の午後の都合がいいとの返信だった。

今週会えないのはちょっと残念だけど、来週会えるだけでもオレ的にはこの上ない幸せだった。

早速、約束を取り付けて待ち合わせ時間と場所を決めた。

名前ちゃんが学校帰り、オレが部活帰りってことで、二時半に駅の改札前ってことになった。



それからオレは、嬉しくて嬉しくて堪らなくて、毎日毎日有頂天で過ごしていた。

薔薇と光を背負った状態だな♪

一時は毒キノコが生えそうになってたけども。



駅前にある有名なケーキ屋の喫茶コーナーでケーキセットを食べる約束を取り付けただけなのに、

オレの中ではもう、名前ちゃんとどうかなっちゃったみたいな気分になっていた。

誘いに乗ってくれたってだけで満足しちゃって、それ以上のことを望む気にもなれないくらい心が充たされていた。

オレの目の前で、キミがケーキを頬張ってニッコリ微笑むシーンを想像しただけでもうお腹いっぱいだった。

まったくもう幸せすぎた。







ところがそんなオレに、花形達から一言進言があったのは、キミとの約束の日を翌日に控えた金曜の放課後だった。

「まさかと思うが、ケーキセットを食べて帰ってくるつもりではあるまいな」

「ケーキセット食べようって誘ったんだから、それ以上のことはないし、するつもりはないが」

オレはパッと顔を染めて即座に言い返した。

「あ、今、変な想像しなかったか?」

高野がからかうような声を出してオレに言った。

「バ、バカ!大バカ!!何、言ってんだよ!んなわけねーだろ!!」

オレは慌てて頭の中の妄想を掻き消してそう言い返した。

花形が、オレと高野の間を両手で引き裂いて、

「コホンッ!そんなことはどうでもいいから…。

オレたちが言いたいのは、いい加減に決着をつけろと言うことだ。

まあ、最終的な結論はまだにしても、その足がかりぐらい付けてこいよ。

要するに、意思表示をしてこいってことだ」

と言った。

「意、意思表示って…」

「おまえ的にはすでに無意識に表現してきてはいるようだが…。

故意に表現してこいよ。

好き、もっと近づきたい、付き合いたい、を伝えてこい」

「な、なんで急に!?」

「なんででも、急でもないだろ。

一生お友達でいたいのか?違うなら男になれ!

藤真がはっきりしなきゃ、コトは動かんぞ」

「う…」

確かに…。

名前ちゃんとどうにかなりたいって切に思ってるのは他の誰でもないオレだけど。

でもオレは、名前ちゃんと約束を取り付けられただけでもうこの上なく嬉しくて、その先なんて恐れ多くて考えられなくて…。

でもこれが終わったらまた、どう誘おう…とか、タイミングとか、つまらないことで頭を悩ませるんだろうな。



…オレ、行くっきゃないかも…



「頑張ってみる」

オレはオレを無条件に応援してくれるコイツらに、そう宣言した。

今回のデート(?)のきっかけを作ってくれた一志には何としても期待を裏切らない朗報を聞かせたいと思った。

オレはその日、なんども拳を胸の前で強く握りしめた。

その度、誰かが

「素直になればいいんだよ」

とオレに声を掛けた。





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