カルピスソーダ

□♯24
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オレたちはその後、噴射式の花火を何本もやって、子どもに戻ったみたいにはしゃぎあった。

「高野と永野も来れたら良かったな」

一志がそう言って、オレたちは

「ああ」

と頷き合った。

「今度の合宿、夜は花火やろうぜ!」

オレがそう言うと、

「そうだな」

花形が珍しく楽しそうに同意した。






オレは多少の空腹と喉の渇きを覚えてベンチに戻った。


そう言えば、名前ちゃんがいない…。

さっきまではいた気がしたけど…。

トイレか…?


オレは軽くそんなことを思いながら、花形達が買ってきてくれたコンビニのおにぎりの中からツナマヨを選んだ。

そして、ベンチの横においたクーラーボックスの中から冷水に浸したペットボトルを取り出そうと屈んだ。

「あ、何か飲む?」

まさかそんなところに名前ちゃんがいると思わなかったから、オレは思いっきり驚いた。

「わあーーー!」

「大丈夫〜?」

目を丸くしてオレを見つめる。

「そんなに驚いた?

…私、何飲もうか変に悩んじゃったものだから…」

背中を仰け反らせたオレを、上目遣いに見つめてくる。



や、やめて!!

上目遣いは反則だって前から言ってるのに…!

やばいっ、頭に血が上るーーー!!!



そして突然、視界が黒い陰のようなもので塞がれ、おでこにヒヤッごりんという冷たい何かを感じた。

キョトンとして、瞳をパチパチさせ、焦点を合わせる。

…名前ちゃんがオレのおでこに氷嚢を乗せているらしい。

「!?」

「藤真くん!大丈夫?

そうだ、カルピスソーダ飲んで!

ポカリの方がいいかな!?

家に入って休む?」

さっきまで真下にあったはずの名前ちゃんの顔が、今度は真上にあった。

カルピスソーダのペットボトルを片手に持ち、もう片方の手でオレに氷嚢を当てている名前ちゃん。

「え…?」

オレはその体勢のまま、何事が起きたのかと瞳で名前ちゃんに訴えた。

「藤真くん、ボーっとしてたから。顔が真っ赤で、鼻血でも出そうな顔してたから。

思わず…。

大丈夫なの?…さっきもボーっとしてたし」

興奮と心配の入り交じった声で名前ちゃんは言った。

「あ…、うん。ありがとう。

少し、逆上せたかな…」

「逆上せ?」

「あ、あ、暑いから…暑いから!!」

ハハッと笑って、オレはひょいと体を起こした。

「大丈夫?」

心配そうにオレの顔を覗く。

あんまりかわいくて、今すぐ食べちゃいたいくらいだ…。

…なんて思ってるとまた血が上るからー。

オレは思考を切り替えることにして、

「大丈夫。ありがとう」

ニコッとキミに微笑みかけた。

「…うん」

頷いたキミの頬がうっすらピンクに染まったように見えたのは、オレの欲目かな。

ランタンの明かりと向こうでヤツらが楽しんでる花火の火だけじゃ、判別なんてつきっこないか。

「おにぎり、食べない?」

オレはそう言ってベンチをスッとスライドし、オレの隣に一人分の空間を作った。

「うん…」

名前ちゃんはニコッと嬉しそうに頷いて、オレの空けた空間をジッと見た。

一瞬、ほんの一瞬、そこに座ろうかどうか迷ったようだった。

オレもさり気にそんなことをしてみたけど、戸惑われて初めてオレ自身戸惑った。



オレって、ちゃらい行動を結構とるよなー。



自分自身がちょっぴりイタかった。

そんなことを一瞬の間に思って、そして次の瞬間にはゆっくりと名前ちゃんがオレの横に座ってきた。

照れ臭さを隠すように(!?)

「おにぎり、いただきま〜す!」

ちょっと大きめに言って、梅のおにぎりを手に取って、オレにニコッと笑いかけた。

「うん」

オレはつられるように微笑み返した。

名前ちゃんがおにぎりの包装を外し始め、オレも同じようにした。

「いただきま〜す」

なんて、やっぱり照れ隠しっぽく言って、ぱくりとツナマヨおにぎりを頬張った。



オレはおにぎりを食べながら、ここのところの気がかりを思い出していた。

こうして隣にいて、触れあう部分は一カ所もないけど、伝わってくる空気感がオレを嫌いじゃないって言ってる気がした。

それは願望とか欲目とかじゃないっていう、確信めいたものがオレにはあった。

日ごとに会うごとに、オレは名前ちゃんをどんどん好きになっていく。

きっと名前ちゃんも、オレを少しずつ好きになってくれている。

それが恋と呼べるものかどうかはオレには分からないけど…。



一つ目のおにぎりを食べ終えて、オレは二つ目に手を伸ばした。

「食べる?」

名前ちゃんにも二つ目を勧めた。

「ありがとう〜。そうだなぁ…そのお菓子、食べてもいい?」

名前ちゃんは、さっき花形達が食べていたらしきスナック菓子の残りを指さした。

「もちろん」

オレはそう言うと、花形達の残りは避けて、新しい皿に新しく盛り直した。

「はい、どうぞ」

オレがキミの前に差し出すと、

「残りで良かったのに」

と言いいながらも嬉しそうに

「いただきます」

と手を出した。

「コレ、好きなんだ〜♪」

一口食べて、ふふっとなんとも嬉しそうに笑ってキミが言った。

「オレも好きだよ♪」

そう言って、オレも一つ摘んで口に放りこんだ。

クスクスって二人で微笑みあった。



くすぐったい♪

微笑み合うのがくすぐったい。

好きって言葉がくすぐったい。

キミの隣にいるのがくすぐったい。

何もかもがくすぐったい♪



楽しくて嬉しくて心地よくて堪らなくて、今日もオレはこのまま時が止まればいいって思った。

もっともっと仲良くなりたい、二人でいるのが当たり前になりたい。

好きって何度も何度も伝えたいし、オレに出来ることは何でもしてあげたい。

オレのこと、想ってほしい。

大好きって言ってほしい。

オレはもう、片思いをいつまでも続ける自信を持てそうになかった。



欲しい。



ただ、そう思った。

コレってランタンマジック!?

イヤ、そうじゃねぇ!

確かにオレは、隣にいるこの子が欲しかった。

いろんな意味で…

イヤらしい意味だけじゃなくて…

それもあるけど…
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