カルピスソーダ

□♯23
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夕暮れ時を過ぎた頃、オレたちはろうそくに火を付け大量に買い込んだ花火を始めた。

「何年ぶりだろう、中学の時ってやったかな。

小学生以来かもしれないな〜」

一志が嬉しそうにそう言った。

「高三になって、男ばっか4人で花火するなんて思いもよらなかったぜ」

オレもそう言いながら、多少興奮していた。

火とか綺麗なものって心を沸き上がらせるんだろうな。

オレたちは

「楽しいなあ♪」

なんて言いながら、続けざまに3〜4本の花火を、シューとかボボーとかいう音を立てながら夢中でやった。

オレは一息つくためにベンチに座って、飲み物を飲んだ。

花形がオレの向かい側のベンチに座って、伊藤に

「そろそろ声かけてみるか?」

と言った。

伊藤は花火を持ったまま振り向いて、

「あ、はい。コレ終わったら行ってきますね」

と言った。

オレは、

「…声って誰に?」

と花形に尋ねた。

花形は小声で

「名前ちゃん、だ」

と言った。

「…それってオレのためか?」

オレは花形の目をジッと見て言った。

「出てきた方が良くないか?」

花形は逆にオレに聞き返した。

「オレのためなら、呼ばなくていい。

…オレのためしかないだろうけど」

オレは花形にそう返した。

そこへ伊藤がやって来て、

「じゃあ、行ってきますね」

と弾んだ声で言ったので、オレは伊藤を見上げて

「イヤ、行かなくていい」

と言った。


伊藤は驚いた顔をしてオレと花形の顔を交互に見遣った。

「いいのか?」

花形は顔色一つ変えずに静かな口調でオレにそう言った。

オレはそんな花形から目を逸らすことなく、

「ああ。もう人に頼ってばかりもいられないからな。

オレが名前ちゃんに声を掛ける。

…メールだけどな」

と言った。

「それが一番いい」

花形はフッと笑ってオレにそう言うと、オレたちの傍らでドギマギしている伊藤を見上げて、

「…だそうだから、花火続けてくれ」

と言った。

伊藤はチラリとオレを見てから、

「じゃあ」

と言って、線香花火に夢中になっている一志の傍へ寄り、

「オレもやります!」

と言って、しゃがみ込んだ。

オレはそれを見届けると、ポケットから携帯を取り出した。

そして、

「花火やってるんだ。

よかったら出てこない?」

と、送信した。

久しぶりのメールだった。

なんだかんだって頭の中で文章を組み立ててみたけれど、飾り立てるのとか上手くできなくて、

そっけないかとも思ったけど、それだけにした。

送信ボタンを押した後はやっぱり返信が気になってどうしようもなかった。

メールなんて選択、気付かなかったらどうすんだよ…とか思ったりした。

運は天に任せるっきゃねえ!って開き直ってみたりした。

ソワソワしてたら目の前の花形が、クスクス笑いだして感じ悪かった。

「なんだよ」

って言ったら、

「別に」

と言ってふふんと笑った。

傍から見れば、今のオレの姿は笑止に値するんだろうって自覚できるだけに言い返す言葉がなかった。

オレはテーブルに肘をついて、携帯を見つめてため息を吐いた。

「…オレも線香花火してくるかな」

そう言って立ち上がろうとしたとき、玄関の扉が開くガチャリという音がした。

花形と一瞬目を合わせた後、玄関の方に目を遣った。

目を凝らすと玄関ポーチから外れた薄暗いところで、

シューという音を立てながらスプレーのようなものを手足にかけている人影があった。

「…」

オレはその人影を凝視し無言になった。

チラリと携帯を見遣って着信のないことを確認する。

そしてまた視線を人影に戻す。

「…」

全身がカチコチに固まっていく。

オレの様子を不審げに見ていた花形が、オレの視線を追うように振り返った。

そして、こちらへ向かってくる人影に向かって

「ああ。出てきてくれたんだ。

よかったら一緒に」

と甘く優しい声で言った。

その人影は暗がりからランタンの明かりの届くところまでやって来て、くっきりとオレの愛しい人の輪郭を現した。

花形に、にこっと笑いかけて

「ありがとう」

と言い、ゆっくりとオレに目を向けると、

「メールありがとう。出て来ちゃった」

少しかしこまった様子で、手に持っていた虫除けスプレーをカラコロ言わせながらそう言った。

オレは、ドギマギしながら

「うん、うん…。

今、そこで二人が線香花火やってる…」

そんなことを言って一志と伊藤の背中を指した。



あわあわあわ…!



自分で呼んでおきながら、本人が目の前に登場すると心が言葉にならない声を上げた。

名前ちゃんはオレをじっと見ると、

「うん」

と言って、虫除けスプレーをテーブルにコトリと置き、くるりと体を反転させ伊藤たちの傍へ歩み寄った。

オレは名前ちゃんが一志と挨拶を交わし、線香花火を一本受け取り、ろうそくの火に花火の先を垂らし、ボッと音と共に

「あっ♪」

と言ってにこやかになり、線香花火を握った手をそっと戻してジーッと真剣に見つめる様を見つめていた。



ドキンドキンドキン…



心臓が高く大きく、胸を引き裂いて出てこようとしているんじゃないかってほどに強くなっていた。

「花火、一緒にやったらどうだ?」

花形が麦茶をコクコクと飲んだ後、オレにそう言った。

オレは、途中でポトリと線香花火の先を落としてしまい、あ〜あと笑いながら言う名前ちゃんを見つめながら、

「…あぁ」

と言った。

「いつも通りでいいと思うぞ」

「サンキュ」

オレは花形の励ましに背中で礼を言い、三人の中に入って行った。
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