カルピスソーダ

□♯22
1ページ/2ページ

あの花火のストラップをオレは自分の部屋の机の棚から下げて、どこからでもよく見えるようにした。

揺れるとキラキラ煌めいてすごくキレイで、あの日のことをオレに思い出させた。

ドキドキして楽しくて夢のようで、そしてオレはまた一段と名前ちゃんを好きになっていた。





次の日の部活動の練習前に、オレは部室から名前ちゃんにメールを送信した。

キレイだったねとか、楽しかったとか、一緒に見れて良かったとか、不慣れなりに一生懸命、心を込めて気持ちを文章に表した。

最後に“今度はいつ会える?”って書き込みたかったけど、考えただけで顔が真っ赤になって、脈拍が急上昇し、腕や指先が震えてきて、こっぱすかしくて堪らなくなって、結局“またね”で締めた。


これが今のオレの精一杯。


送信ボタンを震えながら押し送信を確認すると、大きなため息を吐いた。

パチンとケータイを閉じると、肩の力が抜けていく。

全身の脱力具合から、いかに緊張しながらこのメールを打っていたかが分かった。





オレはバッグにそっと携帯をしまい、体育館に急行した。

送信した途端にキミからの返信を心待ちにするオレがいるから、とにかく練習に集中してケータイのことを一旦忘れたかった。

休憩中も絶対にケータイはチェックしないで、練習終了後、身支度を整えていざ帰宅ってときにケータイをさりげに開くぞ!って心に決めた。



そんなことを自分に言い聞かせているうちに、よく考えてみたら、返信があるとは限らないぜって思い始めた。

だって返信の催促はしてないし、次の約束の取り決めをするような内容も書いてないし、返信を促すためによく女子がやる“〜?”形式の文もない。


単なるオレの感想文、それがすべてだ。


しかも“またね”で終わってるから、読後に心の中で“またね”って言って終わるかもしれない…。


う…。

何やらかしてんだよ、オレーーーー!

今日ほどオレは、自分自身に対する配慮のなさを残念に思ったことはない!!


…ないかもしれないな。

ないよきっと。

返信ナイナイ。

期待して待つより、ないことを前提にしてた方がいいし。

ないってことで…。

ナイって言ってんだろ!!

心のどこかで期待してんじゃない、オレッ!

いい加減吹っ切って集中しないと、全然シュートが入らないじゃないか。

でもでも…じゃないっつうの!

昨日の今日で、また会いたいみたいなこと言うの恥ずかしがったのおまえだろっ。

責任取れよっ。

いろんな感情グルグルさせて、結局何もできなかったんだろうが!

…分かったよ、分かった。

おまえの気持ちはオレが一番分かってるから、次頑張ろうぜ!

…うん。




オレは一生懸命に自分自身の心を慰めて、動揺する心を抑えた。

そして、練習に集中した。






練習が終了したとき、どういう訳かメールのことはすっかり忘れていた。

部室で着替えを済ませ、

「帰ろうぜ」

と連中に声をかけた。

「どっかで何か食ってくか?」

夕方の時間、空腹を覚えたオレはそう言ってロッカーから振り返った。


「…うん。ちょっと待って」

「なんだか今日に限ってメールが…」

「おう…」

「…」

大男が揃いも揃って小さな携帯電話を握りしめて、画面をジッと見つめている。

「早くしろよ」

仕方ない、バスケ雑誌でも読んで待ってるか…

って…オレもケータイチェックするんだった!!

にわかに重要なことを思い出し、荷物をドサッとその場に下ろし、かがんでケータイをそそっと取り出した。

握りしめ開こうとした途端、ピカッ!と着信があったことを知らせるイルミネーションが光った。

ビクッ…!

思わずケータイを目の前から遠ざける。

…来てる、なんか来てる、誰かから来てる…

そーっと開けてディスプレイを確認する。


メ、メールだ…!

バチッと閉じて目を瞑った。

名前ちゃんからですように…!!


心の中でそう念じ、ゆっくりと目を開けてパッと携帯を開いた。

受信ボックスを開いて確認。

…名前ちゃんからだ!

やったーーー!!

ケータイをギュッと抱きしめる。

返信の催促をしなくても返してくれるあたり、さすがだよね♪

ドキドキしながらメールの内容をチェック。




…うん、…うん、…それだけ?




名前ちゃんのメールの内容。

メールどうもありがとう。
昨日は一緒に行ってくれてありがとう。楽しかったよ。キレイだったね。ストラップ、気に入ってます、大事にするね。

ってなことが勿体付けて書かれてあった。

そして最後に、これからも卓ちゃんをよろしくお願いしますね、とあった。



…なんか拒絶された感があるんだけど…

考えすぎ??

なんで今更、卓ちゃんを宜しくされなくちゃいけないんだ…。


うーん…。

名前ちゃんは何だかんだで弟思いだし。

あまり考えすぎないようにしよう、女の子にはデリケートな時期があるというしな。

伊藤と勉強会を開けば名前ちゃんに会える可能性は高いし、それは約束事だし。


ただ…

夕べの花火大会で舞い上がってたのはオレだけか…って思うと…。

さみしい…。

反応が良かったら直ぐさま次の約束を取り付けたいとこだったのに。




オレは、メールの返信さえも期待しないでいようなんて思っていたことはすっかり忘れて、心を煩わせた。

直ぐさま名前ちゃんに会って、何かあった?って確認したい思いと、そんな小器なって思いが交錯して、どうしていいのか分からない心境だった。

家に帰ってからも、そのメールを何度も何度も読み返してキミの心境を探ろうとした。

別になんてことないような気もしてくるし、確実にいつもと違うようにも思えた。

一晩中頭を抱えて悩んだ末、結局何も分からなかった…。




次の日の朝目覚めたときには多少気分が変わっていて、伊藤にそれとなく様子を聞いてみようとか、次の勉強会の取り決めをして名前ちゃんの様子を伺ってみようと思っていた。

こういう時、集中できることがあるっていうのは本当に助かるって知った。

心のモヤモヤとか頭のグルグルとか、バスケに集中することですっかり吹き飛んでいた。

練習が終わってキミを思い出すとまた蘇ってはくるけれど、少し前向きになっている気がした。

そんなことを何日か繰り返し、とうとうオレは練習終了後にロッカールームに向かう途中で伊藤に声をかけた。

「伊藤。着替えた後、少しいいか?」

「はい、大丈夫ですよ。ロッカールームで良いですか?」

「…おまえの時間があるならラーメン屋に寄りたいけど」

「分かりました。じゃあ、ご一緒させてください」

そう言って伊藤は小走りにオレから離れて行った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ