カルピスソーダ
□♯21
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花火が終わって、オレたちは帰り客の渋滞を避けて一休みしてから地元に戻った。
お茶こそは適当なグループで飲んだものの、帰り道や電車の中では二人ずつ、お互いを邪魔しない関係でいれたので良かった。
…高野と永野がチャチャ入れをしないでいてくれたってことだけど。
オレは花火大会が終わった後、駅に向かう途中の出店で名前ちゃんに花火の形のストラップを買った。
もちろん買ってって頼まれたわけじゃない。
自分のを適当に選んでるふりをして、
「どれがいいと思う?今日の思い出になるのがいいな」
なんて言いながら名前ちゃんに選んでもらった。
「これなんてかわいいんじゃない、モチーフが打ち上げ花火の形してるよ。珍しい…!」
ほら、ほら!って目を輝かせながら言うキミにオレは納得して、同じものを二つ手に取り、お買いあげした。
「二つ?」
オレの横で独り言のように呟くキミ。
出店で買うそれはきっと相場よりずっと高いんだろうけど、思い出代も含めてオレは納得して金を出した。
適当なビニール袋に入れられて、おつりと一緒に商品をもらうと、店の前から離れたところに移動した。
そしてそこですぐに一つを取り出して、
「これ」
と言ってキミの目の前に差し出した。
「…え?」
明らかな戸惑いの表情を浮かべ、オレの手のひらに乗ったストラップを眺める。
「今日の思い出に…」
「…私に?」
「…オレも持ってる」
「…」
「つまんないものだけど」
「…ううん。あの…ありがとう…」
そう言って差し出したキミの手のひらに、握り直した花火のストラップをそっと載せる。
名前ちゃんの少し丸まった指先がオレの手の腹に僅かに触れた。
キミの指先から伝わる体温…。
オレの指先が名前ちゃんの手のひらにそっと触れて、指先から熱が一気に体全体に伝わっていく。
顔がボッと熱くなって鼓動が高なっていく。
染まった顔を隠すように俯いた。
「大切にするね」
はにかんだ笑顔をオレに向けてじっと瞳を見つめてそう言った。
「うん…」
キミはそれを
「取り敢えず今、これに付けよう!」
と言って、持っていた和柄の布のあしらわれた小さなかごのバッグに付けた。
目の前にそれを持ってくると
「うん、かわいい♪」
と言ってにっこり微笑み、オレにも見せた。
そして、
「藤真くんはどこに付けるの?ビーズのだからかわいすぎない?」
ニコニコしながら興味深そうにオレに問いかけた。
「オレは部屋に飾っておくよ」
オレは目を細めてキミを見つめ返してそう言った。
「そっか」
夜の中でにっこり微笑むキミは、オレをドキドキさせて止まらなかった。
白い肌や光りを放つ瞳がオレを心を捉えて放さなかった。
行こう、とでも言うようにオレの横に並んで立ってにこっと自然にオレに笑いかける。
オレたちは祭りの余韻の残る街を歩いた。
電車は一時の超混雑は引いていたものの、まだ十分に混んでいた。
一駅ごとに少しずつ空いていくものの、混雑はずっと続いていた。
オレは行き同様にキミを浴衣女子の傍においた。
それでもオレたちの下りる駅のホームに電車が滑り込んだとき、人波がオレたちを呑み込んだ。
電車から降りた直後に振り返ったけれど、すでにキミは傍にいなかった。
キョロキョロすると、でかいだけあってバスケ部のヤツらの姿が遠くても目に入り、さらにキョロキョロするとオレから少し離れたところを歩いている名前ちゃんの姿を見つけた。
「名前ちゃん」
オレが声をかけると、パッと顔を上げた。
すぐにオレの姿を認めると薄く笑いかけてきた。
このまま改札まで行くしかないかって思ったとき、名前ちゃんの後ろに若い男のグループが近づいていることに気付いたオレ。
あの波にキミが呑まれることはオレ的に絶対ナシだった。
後からよく考えてみると、間に何人もの人々の壁があってヤツらとキミが合流することはなかったと思うんだけど…。
オレは進行方向に逆らうように横に移動し始めた。
それでも押し流されて斜め前にしか進んでいけない状態が続く。
流れに逆らうオレを嫌な顔で見てくる人もいた。
それでもオレは名前ちゃんの傍に寄りたくて、キミが嫌な思いをしたりしないようにしたくって必死だった。
運良く階段を上るちょっと手前でキミの元に辿り着けた。
「名前ちゃん」
声をかけると
「藤真くん…」
少しビックリした顔でオレを見上げて、駅が一番混んでるね、と笑った。
もう離したくない、離れたくないって気持ちがオレの心を真っ白にして自然とキミの手を握っていた。
すごくビックリした顔をして足が止まりそうになったキミだけど、人の流れがそれを許さず、オレもキミの手を引いた。
オレに握られていただけの手が、ギュッとオレの手を握り返してくる。
オレたちは左右から押しに押されて、繋がれた手だけじゃなく、腕をも密着させて階段を上った。
オレは意識がキミとの接着点にばかり集中してしまってドキドキドキドキしながらも、ここで意識を飛ばしてる場合じゃない!!って自分に散々言い聞かせながら、なんとか改札まで辿り着いた。
改札をくぐり抜けるとき、腕や、繋がれた手が離れていくときに、とてもとても寂しかった。
だって、今度いつこんなに密着できる機会があるか分からないし…。
改札をくぐり抜けるとき一人になって感じた、キミの体温と湿気。
接していた左半身が妙にスースーして心許なくて、このクソ暑いのに温もりをを求めるオレがいた。
一度知った温もりは、温かくって優しくって、一人って寂しくて二人って温かいってことを知った、花火大会の夜。