カルピスソーダ

□♯20
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花火が打ち上がり始めると、一志と花形の彼女は元の定位置…それぞれの彼氏の横に戻り、名前ちゃんもその動きに合わせるかのようにオレの横に座った。

前を向いて並んで花火鑑賞。

…いい感じ♪



「キレイだね!」

きゃぴっとはしゃぐキミ。

「うん」

頷いてみせたけど、正直花火なんてどうでもいい。

キミの隣にこうしていれることがオレにとっては一番重要で、喜ぶキミの笑顔を見ることがオレの喜びだから。

花火大会中、キミは天高く上がる花火を見つめ、オレは隣のキミを見つめ続けた。

時々キミが、

「ねえねえ今の…」

ってこっちを見るたびにドキリとして、花火なんて見てなかったオレは返答に困ったりもしたけど、次から次へと上がる花火にすべて有耶無耶になった。




そうしてオレが名前ちゃんとの二人の世界を楽しんでる横で、

「…痒っ、…ちきしょー!蚊に刺されちゃったぜ…。誰か虫さされの薬持ってねーかー?」

「…」

「おい。誰か持ってんだろ?出してやれよ、さっきからずっと掻いててうるさくてたまらん」

「…っ、しょうがないなあ、…ほらっ」

オレは仕方なしにバッグからムヒア○ファーを取り出して高野に渡す。

「サンキュー♪」





「…あ、また…。痒いー痒いよー。藤真、ムヒ!」

「…ほらっ」

「あ…オレも!なんでオレらばっかり…おまえらなんで刺されないの?」

「虫除けしてきてないのかよ?」

「蚊なんて頭になかったんだよ、蚊なんていたか?」

「…オレここで見るの初めてだし、もう何年も花火大会来てないから知らないけど」

「…い、痛い、痛いー!掻き壊したところに塗ったら凍みるーー!凍みるよーーー!!」

「何やってんだよ、もう。…オレには手が負えん。おい、花形っ!」

そう言って花形を振り返ると、振り返ってはいけない光景が…。

ナニしてるってわけじゃないけど…完全に二人の世界じゃないかっ!

オレだってああなりたかったんだぞ!!




「ったくしょうがないなー。ほらっ、絆創膏。それから虫除け」

「…サンキュー藤真。おまえって気が利いててすっげーいいヤツだな。オレ、惚れ直しちゃったよ」

「…いいから少し静かにしててくれよ。もうこれ以上、手間かけさせるな」

「うん♪」

やれやれ…。

「…あ、」

「…」

また…?

「…藤真、藤真!高野が…!」

「…なんだよっ」

「汗がベッタリで絆創膏が貼れない!」

「…ぁあ?タオルで拭けよ!タオルぐらい持ってんだろ!」

「…ない…」

「それぐらい自分で持ってこいってー!!
ったく…、ほらっ!コレで拭いて」

「…ありがとう藤真」

「そのタオル遣るから、もう戻さなくていい」

「…すまん」

はあ…。

「…あ、」

なんなんだよーー!

「汗掻いた指で持ってたから、絆創膏自体がダメになっちゃった…」

「…何やってんだよもう!ちょっと貸せ、仕方ねえなぁ」

オレは高野の毛むくじゃらの足の前に屈むと、新しい絆創膏を出して患部にペタリと貼って遣った。

「ほら。今度は掻く前に塗れよ。…まあ虫除けしたんなら大丈夫だろうけど」

言っとくけどなー、どれもこれもおまえらのために持ってきたもんじゃないんだからな!

「うん、ありがとう。…オレ、藤真の彼女になりたいよ」

「…っ、ふざけんな!おまえみたいなのぜってーやだよ、バカ!」

「冷てーなぁ。でも、その冷たさも今日は魅力的にう・つ・る、ぜ♪」

「…気、気持ち悪っ!二度とオレに近づくなっ」

「名前ちゃんが羨ましいよ、コイツ結構いいヤツでしょ」

高野が急に振り返って天を仰いでいる名前ちゃんに大きな声で話しかけた。

「…え?」

え…??

「コイツいいヤツだから、オススメだよ!付き合っちゃえば!」

「??……うん……」


……ええーーー!?


今、今、頷いた??

今、頷いたよね!?

コクリってしたよね!!



「名前ちゃん…」

オレ、オレ…

「高野くんなんて言ったの?花火の音が凄くて全然聞こえなかったんだけど」

ニコッと微笑むキミの笑顔に邪気はない。

「…嫌、大したことじゃないから…。全然、全然気にしないで…」

キミの横に腰を下ろして、小さくため息を吐く。

「本当?」

キミが心配そうに首を傾げてそう言ったけど、

「うん…」 

オレは小さく頷いて、膝を抱きながら散っていく花火をぼんやりと眺めた。




「…残念だったな」

隣の永野がオレの耳元でそう囁いた。

「ほっとけ…」

オレはぼそりと呟いて、フンッと永野に鼻息を掛けた。

そんなオレをニヤッと眺めて永野が一際はっきりとした声を出した。

「名前ちゃん!」

「なあに?」

オレの前で二人の顔が近づいた。

…な、…な。

「藤真って顔だけじゃないから。オレたちみんなコイツが好きだし、名前ちゃんもでしょ」

そう言われて、一瞬きょとんとするキミ。

ふふっと笑って

「うん」

と頷いた。

「だよね!おまえもだろ、藤真!」

「…う、ん…」

永野は名前ちゃんにニコッと微笑んで、姿勢を戻すと腰の後ろに手に付いて天を仰ぎ、

「感謝しろよ」

そう囁いた。

「お、おう…」

それが、社交辞令的なお友達として的な“好き”って意味だったとしても、オレの好きとはニュアンスが違ったとしても、オレはただひたすらに嬉しかった。


そしてオレはまた、キレイだねって言いながら打ち上がる花火を見つめるキミをしみじみと見つめた。


きらきらと瞳を輝かせるキミが、その瞳に今夜の花火を一生懸命焼きつけているキミが、かわいすぎて愛しくって堪らなくなって

「名前ちゃん…」

心の中で呟いたつもりのキミの名前をつい声に出してしまった。

「なに?」

くるっと振り向いてオレの瞳を覗き込む。

薄闇の中で合わさる瞳に、薄く光りを放つキミの瞳に思わず唾を飲んだ。

「どうしたの?」

手を付いてオレに顔を寄せてくる。

「……ごめん、なんでもない…!」

ぷいっと反対側を向いてしまった。

自分から声を掛けといてなんだって態度だってことは分かってる。

でもでもっ…

心臓が半端なく掻き鳴っている、キミにも聞こえちゃうんじゃないかってくらいに。

息が上がって顔が火照る。

鼓動を止めたくて出来るだけ小さく深呼吸をしたけど。


頼む!静まってくれーー!



「…大丈夫?藤真くん」

肩越しにキミの声。

オレはゆっくりと向き直りキミの瞳をじっと見つめた。

首を小さく傾げてオレの瞳を見つめ返すキミ。


…ダメだって言ってるのに…

でも、止、止、止まれない…

右手をゆらゆらとキミの方へ伸ばした…。




「はい!」

伸ばした右手にひんやりとした感触…

「…?」

「長谷川くんが、これで熱と乾きを癒しなさいって」

暑いもんね!って笑って、プシュッと自分の缶のプルトップを開ける名前ちゃん。

「…う、ん…」

オレもプルトップに親指をかけながら、振り返りチラッと一志を見遣った。

意味ありげに、ニニニと笑う一志。

「サンキュ」

オレは一言声を掛けて、ファンタグ○ープをゴクゴク飲んだ。





ドキドキ花火大会の夜は、そんなこんななままに更けていった。






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