カルピスソーダ

□♯20
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大量の人並みに押されるようにオレたちは改札をくぐり抜けた。

会場の一個手前の駅だってのにオレたちと同じように電車を降りる人々。

それぞれ思い思いの場所へ散っていく。


改札から少し離れたところで伊藤に電話を入れて場所の確認をし、名前ちゃんと並んで夕闇迫る海岸近くの公園へ向かって歩いた。



浴衣の女子はいっぱいいたけれど、誰よりもかわいい名前ちゃんにオレは内心メロメロだった。

心臓は鼓動を高鳴らせ、血液の循環はフル稼働。

鼻血が出ないように脳の妄想域の思考を停止するのが大変だった。


だって…いつもは髪の毛で隠れて見えないうなじが白く浮かび上がって、そこからいい匂いを発しているように思えて堪らなかったし…。

実際、甘いいい匂いがどこからともなく匂っているし…。

後れ毛が首にまとわり付いているのも、汗が光っているのも、浴衣の重なり合う、見えそうで絶対見えない胸元も、何もかもがかわいくてまともに凝視できないほどなんだから。

まともに凝視できないものだから、でも物凄く見たくて堪らなくなってチラチラするなんてことの繰り返し。

その度に、顔面は真っ赤で息を飲む。


そんななくせに、浴衣万歳!!って内心大騒ぎなのに、それを悟られないようにフツーぶってる自分がなんか情けなかったりして。


かわいいね、似合ってるよって、さりげなく耳元で囁けるようになる日は来るんだろうか…今すぐ囁きたいけど……


…!?

…まずいっ!

頭に血が上るーーーー!!!






「出店、出てる〜!何か飲む〜?」

「…?出店?」

不意に話しかけられて、思考が切り替わる。

…あぁ、確かに…。

公園が近づくにつれて出店の数が多くなってきた。

言われてみれば…

「喉乾いたね」

「うん。藤真くんもさっきから顔真っ赤だし、随分汗かいてるよ」

ニコッと微笑んでキミがそう言った。


気付かれてたか…自制しよ。



「せっかくだからなんか飲もう♪」

オレがそう言って、オレたちは公園に向かって歩きながら適当な一軒に立ち寄ると、炭酸飲料を買って飲みながら歩を進めた。


もちろん今日もオレのお・ご・り♪

やっぱり初めは遠慮してきたけれど、

「お願いだからこれくらいさせて」

って言って、前回よりはすんなり奢らせてくれた。

本当にちょっとしたオレの優越感なんだけど、キミに何かをしてあげるってことが気持ちよくて仕方ない。



一口飲んで

「おいしいっ」

ってオレに微笑みかけてくれると、もっと何かしてあげたくなる。


「綿菓子買ってあげようか?金魚すくう?お面買っちゃう?ほら、光るのとかあるよ!!」

「えっ?…いいよ、いいよ!子どもじゃないんだし…!」

慌てて手を振って一生懸命断るキミが更にかわいくて、全部を押しつけたくなったけど、

「そう?欲しいものあったら言ってね」

今回は諦めることにした。



冷静に考えると、どう考えてもいらねーよな…。

良かった、押しつけなくて。

そんなもん無理矢理押しつけられたりしたら、オレだったら大ッ嫌いになる、そいつのこと。



…でも、何かを押しつけたくなる気持ちは今回でよーく分かった。

好きだからよく思われたいし、よくしてあげたい、思い出になるものが欲しいし、形にしたいんだってこと。






公園の入り口に着くと、伊藤が手を振って声を掛けながら近づいてきた。

こんなとき、お互いに平均身長より高いってことが有利になる。

花形とかいればもっと目立って一目瞭然なんだけど。


「良かった、見つかって!」

行きましょう〜、いつもよりテンション高めの伊藤に促され、オレたちは伊藤が先に行って取って置いてくれたという場所へ公園内を移動した。


「悪かったな。大変だっただろ」

「早く着いたんで大丈夫でしたよ。適当にぶらぶらして楽しめましたし。今の方が混んでて大変だったんじゃないですか?」

「電車は超満員だった。仕方ないけどな」

そんな会話を交わしながら三人で人波を掻き分けて歩いて行った。





「ここです♪」

伊藤がニコッとして腕を広げた。

「ああ、ここか!…って何でコイツらまでいるんだよっ!?」



「藤真、おせーぞ」

「普段、人には時間時間て言うくせに、ギリギリ行動とは何事だあー」

なんでオレたちのシートの横に、高野・永野のコンビがいるんだっ!



「よっ、間に合って良かったな」

「間に合うように来るとは思ってたがな」

「一志?花形??」

オレたちのシートの後ろ?

隣のそれは…彼女か?彼女たちなのか??

ペコリって頭下げられても…!



「おい…」

「オレ、みんなに場所取り頼まれてたんで…。すみません、でも楽しいと思いますよ♪」

「そっか、そうだな…。きっと楽しいよ」

オレは二人っきりでいたかったのにーーー!




「藤真、こんなことも今年で最後だろうから、みんなで思い出作ろうぜ」

花形がオレを仰いで声を掛けてきた。

「…」

確かに、インターハイに出てたら花火大会なんて考えもしなかったし、高校最後の夏だし、こいつらと揃って過ごす夏も最後なんだよな。

考えたくないけど、日常が日常じゃなくなる日が来るんだ。


…オレが会計士事務所開いたら、コイツら全員、事務員にしよ…

感傷的になってそんなことを思った。





「わあ、準備いいんだね!」

名前ちゃんがオレの横で下駄を脱いでシートに上がり込み、誰が用意してきたんだか小さなレジャーテーブルの前に座り込んだ。

「伊藤名前って言います。今日はよろしくお願いします」

花形と一志の彼女らしき二人の女子にペコッと頭を下げて、

「卓の、この子の姉です」

なんて自己紹介している。

「藤真くんと一緒に来たよね」

「付き合ってるんじゃないの??」

「今日はたまたま…」

なんてオレたちそっちのけの女子トークを展開しだしている。



「おまえも上がれよ」

オレも靴を脱いでシートに上がり込み、伊藤を促した。


「…あ、オレは向こうなんで…」

そう言うと、じゃ、失礼します!タタッ…と掛けていってしまった。

「なんだアイツ…」

オレが伊藤の背中を見遣りながら呟くと、

「アイツ、彼女連れなんだよ。二人で別なところで見るんだってさ。なにするつもりなんだかー」

永野が皮肉っぽく言って、それから

「やっぱ、ここじゃ嫌なんだろー」

ハハッと笑った。


……オレも嫌だったけどーーー!


オレがそう心の中で叫んだとき、花火大会の始まりを知らせる一発目の花火が空高く打ち上がった。
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