カルピスソーダ

□♯18
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どうする?と言う表情で名前ちゃんがオレを見る。


オレは、

「もうちょっと一緒にいてもいいかな。オレ、今すごく楽しいし、名前ちゃんのこともっと知りたい」

そう自然と口から言葉を漏らした。


自分自身の素直な発言にビックリするオレ。

それよりもっと驚いたような顔でオレを見つめる目の前の女の子。


今更だと思ったけどオレの頬がポッと赤くなる。

名前ちゃんの頬もうっすらピンクに染まってるように見える。

ただそれは、オレが緊張のあまりに目が充血して、キミの頬まで染まって見せたのかもしれないし、素直な気持ちには素直に返してくれるキミを垣間見ただけかもしれないけれど…。

とにもかくにも緊張しすぎたオレにはそこのところはよく分からなかった。

ただキミが

「うん。私も…」

そうはにかんで言ったのはオレにも分かった。


「じゃあ行こう♪」

そう言ってキミの横に並び二人で歩き出した。


手を繋ぐわけでもないから、オレたちの間には常に十センチ以上の隙間があった。

そこには温くて心地よい二人の体温から生み出される新しい空気があった。

オレはその空気がなんだか気恥ずかしくて堪らなかった。

オレの指先はキミの体温を敏感に感知して触れてもないのに熱がこもってくる気がしたし、キミはこの空気をどう思ってるんだろうってそのことばかりが気になった。





ふらふらし出したけれど何もすることのないオレたちに名前ちゃんが、友達と良くするふらふら歩きの楽しみ方というのを提案してきた。

少し恥ずかしそうにして教えてくれたそれは、店に並んでいる商品でお気に入りの物をお互いに言い合うというものだった。

商品というのは大概色違いなどで二、三種類ずつ取りそろえているものだから、そのうちのどれがいいかをお互いに言い合うというのだ。

自分が欲しいか欲しくないかは関係なく、二つ以上並んでたらどちらかを選ばなくてはならないと言う。

そして、どうしてそっちがいいのかを言い合い意見を交換するとのことだった。


男のオレには趣旨が全く理解できない遊びだったが、名前ちゃんが言うにはいい暇つぶしになるし、物を通していろいろと言い合うことでお互いを理解し合うのにかなり役に立つらしい。

仲のいい友達とは、暇なときにかなりの割合でそうやって遊ぶと言った。

女子ってだから、どれがいいと思うーって聞くんだなと知った。




オレが名前ちゃんとのその遊びに乗らないわけなかった。

どこからでも始められる…と言ったが、まずは名前ちゃんが欲しいと思っているサンダルからと言うことで、靴屋に入った。

確かに、サンダル一つとっても色が違ったり、よく見るとモチーフの場所が違ったりといろいろあった。

靴屋では取り敢えずサンダルだけと言うことで、オレたちはサンダルの前に並んた。

そして名前ちゃんの指定した同種のサンダル四足の中から一つを選ぶ。



オレたちは互いに違うサンダルを指さしていた。

「どうしてそれがいいの?」

すかさず名前ちゃんがオレに質問する。

名前ちゃんが、サンダルっていうかミュールだと言ったそれは色違いで四種。

オレはその中から焦げ茶のやつを選んでいた。

名前ちゃんは白。


何でって言われても…。

名前ちゃんが白でいいなら白でいいんだよ、なんだっていいんだから、オレは。

と言いたくなる。

だがしかし、ここでは絶対いいと思った理由を言わなきゃならないみたいだから…。


オレは、

「これなら何にでも合うし、名前ちゃんの足下にも良く合うと思う」

と言った。

「…ふーん」

名前ちゃんはオレの選んだサンダルをマジマジと見ている。

オレも

「どうして白がいいの?」

と聞いてみた。

「かわいいから」

名前ちゃんはそうとだけ言った。

「それだけ?」

オレは目を丸くする。

「うん。私ってついその中の一番かわいいと思うのを選んじゃうんだ。コーディネートのこととか全然忘れちゃうの。藤真くんの意見、すごく参考になったよ」

とニッコリして言った。

なるほどね、オレはすぐにバランスとか考えるけど名前ちゃんはそうなんだ…。




すぐに別の種類の、今度はビーチサンダルのおしゃれ版みたいなのに移った。

そこでも同じようにお互い選びあって意見を交換しあった。




そうしてバッグとか服とかコップとかあちこち見て歩いて、ときに同じ物を選んだりもして、すると妙に親近感が湧いたりして、違う物を選んでも同じ物を選んでもすごく楽しかった。

品物の選び方もそうだけれど、ああ言ったりこう言ったり、言葉の使い方や選び方も興味をひかれた。


きれいな物やかわいい物を見るというのは、それだけでいつの間にか心躍りテンションが上がるものなんだと、この遊びをしているうちに分かった。

それでもキミとじゃなきゃこんなに楽しくないし、他の誰ともこんなことしたいとは思わなかった。



基本オレは名前ちゃんに似合いそうな物を、名前ちゃんはその中で一番かわいい物を選ぶスタイルだった。

名前ちゃんと一緒に、名前ちゃんのための物を、名前ちゃんのために選ぶ、そのことがオレに興奮と快感を与えた。


名前ちゃんはオレが何を言っても一貫してオレの意見を尊重してくれたし、ときに笑ってときに感心しながら聞いてくれていた。

そして、

「私に似合う物を選んでくれて嬉しい」

と言った。

オレにとって当たり前のことをわざわざ喜んでくれて、天にも昇るくらいに嬉しかった。





そしてその遊びを終える頃にはオレは心底名前ちゃんを好きになっていた。

今までも心底好きだと思ってたけど…。

もしかして心に底ってないのか?

そしてオレはこの先、もっともっと名前ちゃんを好きになるのかもしれない、そんな予感が心の中に膨らんでいった。

それは心地良い予感。


抱きしめたりキスしたり、そういうこともしたいけど、その前になんていうかもっとキミを喜ばせたいと思った。

オレの前で喜びの笑顔を浮かべるキミを想像するだけでオレの心は打ち震える。

オレと一緒にいることがキミにとっての喜びになってほしいと願った。

オレと会うだけで、オレを思い出すだけで、キミの心が喜びで満ちたらいいのに。



オレがキミに出会えてこんなに幸せなように、キミにも同じ幸福感を味わって欲しいと心から思った。
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