カルピスソーダ

□♯17
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ビクンッ!

オレは一歩後退りをし、伸ばし掛けていた手を背中の後ろまでぐるんと下げた。

「な、な、何を…?」

「こっちにするね♪」

そう言ってニコッと微笑みキミが手に取ったのは、オレが選んだ方のチャームだった。

「気にしなくていいんだよ、オレは単に自分の趣味を…」

さっきの衝撃がまだ体に残ったままのオレは、体を変にビクつかせてそう言った。

「ううん、これがいいと私も思ってたの。でも…ほら。これ、他のより千円も高いんだよ。だからちょっと迷ってたんだ。でもせっかくだし、藤真くんも好きなの選んだ方がいいよって言ってくれたしね」

商品を持ってオレに向き直ると、はにかんだ笑顔でそう言った。


良、良かったのかな…。

無駄に高い買い物させられたって後で後悔しないかな…。

あ…。

「オレ、買ってあげようか?良かったら買ってあげるけど」

オレはキミの肩を挟むように掴んで、目が合うように少し屈んでそう言った。

「え…?」

何?っていう顔をする名前ちゃん。

俯き加減に目を逸らし戸惑っている。

「オレ、買ってあげたいんだけど」

オレは逸らされた瞳を追いかけた。


…って何やってんだよ、オレーーー!!!


バッと手を離し両手を斜めに上げたまま三歩後退る。

「ご、ごめん…」

うわあああああああ…!!!



「う、ううん。えと、自分で買うから大丈夫。変に甘えるとこれから誘いづらくなるし…。藤真くんも気にしないで」

伏し目がちにして言い辛そうにそう言うと、緊張した面もちのまま上目遣いにオレを見てはにかんだ。


あ、甘える…?


………。

………。




「藤真くん?藤真くん…?」

…オレのポロシャツの袖が引っ張っられている。


「藤真くん、大丈夫?」

「え?…あ、うん…」

オレが声のする方を見ると、オレの顔の真下でオレの瞳を覗き込む名前ちゃんがいた。

それだけでもぶっ飛びそうなのに、ぶっ飛ばないようにポロシャツの袖口を押さえてるキミにぶっ飛びそうなオレ。


「…気にした?」


ああ、それ以上はやめて!

首傾げるのは反則技だから!!


オレはパッと顔を逸らすと

「気にしてないよ、全然気にしてない」

と大慌てで言った。


「そう?じゃあ会計してくるね!」

そう言ってレジに向かう名前ちゃん。

その後ろ姿を見つめてオレは大きなため息を吐いた。


意識飛んでる間、一体オレってどうなってるんだろう。

まさかそのうち、人格交代とかして名前ちゃんを襲ったりしないよな。


心配だ…。


とにかく慣れろ、彼女という存在に!

いちいち、わあわあしてる場合じゃないっつうの。

オレは自分自身にそう言い聞かせた。




オレはよろよろとレジの傍へ歩み寄った。

名前ちゃんはもう代金を払い終わったようで、店員の女性が商品を包装しようとしていた。

「あっ、今このバッグに付けちゃいたいんですけど、いいですか?」

名前ちゃんは慌てたように店員にそう声をかけた。

「大丈夫ですよ!」

手をピタリと止めて、ニコッとして店員が答えた。

そして、

「こちらで付けましょうか?それともお客様ご自分で付けられますか?」

柔らかい微笑みを浮かべて名前ちゃんにそう尋ねた。

「じゃあ、付けて貰ってもいいですか?」

名前ちゃんは遠慮っぽくはにかんでそう言うと、店員に恐る恐るバッグを差し出した。

オレが斜め後ろに寄ったのに気付いていたようで、振り返ってニコッとし、

「私、不器用なの」

と恥ずかしそうに言った。

店員は器用な手つきで留め具を外し、あっという間にバッグの持ち手にチャームを下げた。

「どうぞ」

と言って、バッグを名前ちゃんの方へ丁寧に差し出す。

そして、

「ありがとうございます♪」

と言った名前ちゃんに笑いかけて

「今日は彼氏さんと一緒なんですね」

と満面の笑みを浮かべて言った。


「…」

「…」



彼氏ってオ、オレのことだよね?

絶対オレのことだよね?

名前ちゃん、店員さんがオレのこと…


「やだっ、彼じゃないんです!ふふ、おかしい♪」

口元を手で押さえてクスクスと笑う名前ちゃん。


ざ、残酷…。


「そうなんですか?とっても仲良さそうに見えたから…」

名前ちゃんの発言は店員の女性にとって意外だったようで、オレと名前ちゃんを交互に見比べている。

そりゃ彼氏じゃないけど、真っ向から否定されるとズシンとくるんだってば、殊更に深く悲しいんだってば。

オレは小さくため息を吐いた。


オレと名前ちゃんを交互に見ていた店員は、何かに気付いたように

「また是非一緒に来て下さいね」

とオレにニコッとし、名前ちゃんに

「お客様が購入されたこの商品は、ウチのこの夏一押しの商品なんですよ。選んで下さって嬉しいです」

と言った。

「あ、これは藤真くんが…。あ、この…」

そう言って名前ちゃんが振り返ってオレを見上げた。

キミと瞳があった傷心のオレは、

…オレ悲しい。

そうキミに瞳で訴えたけど、多分届いてないんだろうな…。


店員が名前ちゃんに、

「趣味がいいんですね。素敵だと思いますよ」

と優しく微笑み、名前ちゃんは

「今度は壊さないように気をつけます」

と恥ずかしそうに小声で謝った。



そしてオレたちは店を後にした。





今日でどうにかなろうって思ってたわけじゃないけど、でもまるきり期待してないって言ったらウソになると思う。

少しはオレのこと意識してくれたり、顔をポッと赤く染めたりなんてことあってもいいかななんて…。


名前ちゃんはオレのことどう思ってるんだろう…。

ふとそんな疑問が頭を過ぎった。


彼氏なんて勘違いされて有頂天になった直後だから、決まり切った事実が辛いだけだ。

まだ、これからだろっ!

メソメソしそうな自分に喝を入れて、今日を楽しもうと心がける。




「藤真くんのお陰でいいお買い物が出来たよ」

オレの横を歩く名前ちゃんがそう言ってニコッと笑いかけてきた。

「そう?お役に立てたならすごく嬉しいけど」


ぐすん。


オレはさっきまで悲しみの涙で頬を濡らしそうだったってのに、今は喜びの涙を流しそうだった。

「赤いボールペンも忘れずに買ってかなきゃね!」

オレは名前ちゃんニコッと微笑んだ。
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