カルピスソーダ

□♯16
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ファストフード店を出て、名前ちゃんのお目当ての店に向かった。


名前ちゃんの歩調に合わせて歩く。

いつもオレよりデカいヤツらと歩いているオレにとってはかなりのスローペースだった。

万が一にも指先が触れてしまわないようにある程度の距離をとりながら歩いた。


オレは電車通と判明したときから聞きたかったことを歩きながら聞いた。

「大変じゃない?」

朝の通勤時間帯なんて痴漢とかいるんじゃないか?

名前ちゃんの高校の制服なんていいターゲットっていうか、狙われやすいっていうか、狙いたいんじゃないか?

「最初は慣れなくて大変だったけど、もう六年目だから。電車に乗れば大抵友達がいるし、結構楽しいよ」

「へえー」

そうなんだ〜♪

変質者の餌食にはなってないようだな、ホッ。

名前ちゃんに汚らわしい手で触るようなヤツはオレが断じて許さない。

オレだって全然触ってないんだから…

オレが丹念に触った後でも絶対に許さないけどな!


そう思った瞬間にあの日の餃子の皿の下での指の感触が鮮明に蘇り、ぽぉっと顔が赤くなる。

指先が自分のものじゃないみたいな感覚になった。

赤面した顔を隠したくて俯いて歩いた。




名前ちゃんの行きたいと言った店は近くのデパートの中にあった。

エスカレーターに乗って上の階へ上がる。


オレはエスカレーターの立ち位置に迷う。

一段下?二段下??

一段下ってすごく密接した感じになるし、段差で顔が近くなる。

今のオレにはまだ刺激が強すぎる気がしてかなりの戸惑い。

それで二段下にいることにする。

ところがこうしてみると二段下というのは離れすぎてる気がする。

この距離は他人だよな…。

他の高校生のカップルを見ると、当然一段違いで乗って平気で密着してる。

腰掴んでるヤツとかいるし…。

思い切って一段上に上がってみる。

やっぱりすごい密接感だ…振り返られたらヤバイことになるし、これは…背中向きも十分妄想の対象だってば…。


…ちょっと待てーー妙なこと考えるな!!

落ち着け!落ち着けーー!!



「この階なの」

エスカレーターを下りて数歩進んで人の波から外れた名前ちゃんが、オレに振り返って笑いかけた。


…もう?

妙に拍子抜け…。

結構楽しかったのに…。

楽しいイベントに乗り切れなかった感があって心にすきま風が吹いた。

世の中のエスカレーターがもっと長くてゆっくりだったらいいのに…。

オレはそんなどうしようもない希望を心の中で声にして言ってみた。



名前ちゃんに合わせてフロア内を歩く。

洋服だとかバックだとか雑貨だとか、華やかだったり落ち着いてたり、それぞれの雰囲気を持った店の前を通り過ぎた。

「ここ♪」

ある店の前で急に立ち止まり、ニコニコしてオレを見上げた。

いつもの数倍笑顔になってる。

その笑顔にキュンって胸が締め付けられる。

この店が好きなんだねって一目で分かる。


名前ちゃんに付いて店の中に入った。


店内をキョロキョロと見回すと、バッグとか傘とかポーチとかアクセサリーとかサンダルとか洋服以外のいろんなものが売っていた。

基本はかばん屋なのか…バッグの類が最も多く置いてある気がする。

「こっちこっち!」

キョロキョロしていて遅れをとったオレを手招きして呼び寄せる。

名前ちゃんの隣に行くと、棚の上にキラキラしてたりカラフルだったり、ぬいぐるみが付いてたり、とにかくいろんなタイプにアクセサリーみたいなものがあった。

棚の奥にも同じ様なものがじゃらじゃらっと引っ掛かっている。

そこ専用に照明が当てられているせいか、目を凝らさないとちょっと眩しかった。

「どれがいいかなあ〜」

そう言いながら商品を覗き込んで吟味している。

瞳をくりくりさせている。

…真剣なまなざし?

少し屈んでいるせいか髪の毛の分け目とかつむじが丸見えになってる。

かわいい…。

オレはついつい微笑んでキミをウットリ眺めた。


そんなオレに不意打ちの質問が…

「藤真くんどれがいいと思う?」

えっ?

全然見てなかったんだけど。

マズイ…。


オレは基本、光り物に興味がない。

よく分からないんだ。

この手の質問は確かに女子がよくしてたけど、オレのもんじゃなし…って今までは思ってた。

「名前ちゃんはどれがいいと思ってるの?」

「どれもかわいくて迷っちゃうんだけど、キラキラしててかわいいのとかキレイなのが好きだから…。だから余計に壊れやすいんだけど。コレとコレと…コレ?のどれかにしようかなって今思ってたんだけど。せっかく一緒に来たから男の子ってどんなのがいいって思うのかなって」

取り上げた三つのチャームなるものをオレに見せて、並べて置いた。

「…オレ、自分が付けないから分からないんだけど、この三つの中で選ぶなら、コレがいいかな」

オレはその中でもっともシンプルな装飾のものを選び、恐る恐る指で指した。

それは、ハートとかキラキラした石みたいなのが細い鎖の先に付いているものだった。

「ふーん」

名前ちゃんは目を丸くしてそう言いながら三度頷いた。

…どうだったんだろう、どう思ってるんだろう。

「ゴテゴテしたものは好まないんだね」

「うん、あんまり。シンプルなのがいいかなって。女の子の物もそう思うんだけど」

「そっかあ」

そう言って、自分で選び出した三つの中から最もゴテッとしたのを元の位置に戻した。

そうして残った二つをジッと見比べる。


…オレが選んだのは第一候補じゃなかったんだな。


もう一つの方が第一候補とオレは見た。

「使うのは名前ちゃんなんだから、好きなのを選んだ方がいいんじゃない」

オレがキミを迷わせてしまった気がしてそう伝えた。

キミが持ってればなんでもかわいいし。

一歩近寄ってキミの顔を覗き込むと、眉間に皺を寄せてジッと考え込んでいる。

ど、どうしたって言うんだ?

「名前ちゃん?」

オレが肩に手を置こうとしてつい手を伸ばし掛けると、

「決めた!」

はっきりした声でそう言った。
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