カルピスソーダ

□♯15
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それからの二週間、オレは毎日笑顔だった。

いつでもどこでも親切なバスケ部のキャプテン兼監督の藤真くんだった。

気持ち悪がられたって仕方がない。

オレが故意にやってることじゃなくて、自然とそうなっちゃうんだから。

オレって実はこういう本性だったんじゃないかって思えてくるくらいだ。

相変わらず告白してくる女子にも、恋する気持ちを知ったオレは少しだけ親切になった。

最近はこう断っている。

「悪いけど好きな子いるから」

そうすると目を見開いて驚いた顔をするけれど、すぐに引き下がってくれる。

名前ちゃんに誤解のないように女子は完全シャットアウトだ。


「藤真の好きな子って誰だってクラスの女子にしつこく聞かれたよ」

こないだまでバスケ部のヤツらにそう言われてたけど、最近ではあまり言ってこなくなった。

さすがにオレも

「伊藤のお姉さん」

とは言い辛いので…かなりの勢いで伊藤に迷惑がかかるだろうから、

「いいなづけ」

と答えることにした。

最初はみんなビックリして、伊藤までもが

「藤真さんて許嫁いたんですか?」

なんて聞いてきたりしたが、

「そのくらいのインパクトがないと払いきれんだろうが」

と言ったら苦笑していた。

そして、

「万が一、姉の耳に届いたらどうします?」

と聞いてきたから、

「おまえがなんとかしとけ」

オレはポッと顔を赤く染めてそう言った。

実際、付…付き合うことになったら最終的には結…結婚するんだから全くのウソってわけでもないだろ??

まだ付き合ってもないのにって言われたって、オレの中ではいずれ付き合うことは前提として決められたことなわけで…。

オレの人生プランにはすっかりキミは組み込まれてて…。

イ、イケナイことでもないだろっ、心まで萎縮させなくたっていいだろ、心は自由なんだから!!



と、とにかく努力の甲斐もあって、オレの学校生活はかなり落ち着いたものになっていた。

これからは誠心誠意、バスケと名前ちゃんに集中する日々を送るんだ。

品行方正もきっちり守って、毎日が充実してバラ色に輝いていた。

花形からは、オレがやたらに張り切ってるといつがバスケ部員に死人が出るから、練習を少しセーブするよう進言があった。

冬は絶対オレたちが優勝するんだろ、全国はオレたちが出るんだろと言ってはみたが、夏場の陸トレはランニング中心にすることにした。



そうこうしているうちにテスト結果が返され、いつの間にか梅雨が明け、授業が終了し、待ちに待った夏休みがやって来た!


その日は朝から良く晴れて、オレの心も快晴で、いつもより早く起きてランニングに出かけ、ウキウキソワソワしてたら母親に気持ち悪がられた。

「熱でもあるんじゃない?」

「ない!」

オレはそう言って額を手のひらで覆い隠した。

「熱ある自覚あるんだ」

「ち、違う!熱なんてないし!絶対ないし、零度だし!」

「…やっぱりおかしい」

母親は訝しくオレを見つめ傍まで来ると、オレの手を退けさせて自分の手のひらをオレの額に押しつけた。

「………、ナイ」

「だから言ったろうが」

オレは母親の手のひらを振り払うように頭を振った。

「しらふでおかしい方が重症」

「おかしくないから!もう学校行く」

オレは朝ご飯を掻っ込んでその場を後にし、早々に身支度を整え家を出た。

母親に何を言われようと、実際オレのテンションは人生史上最高に上り詰めていた。

道行く人は暑い暑いと手をうちわのようにしていたが、オレは走り出したいほどだった。

学校までの道のりを全速力で駆け抜けたいくらいだった。

こないだ同様、お着替え&身支度セットは万全にしてきたけど、不要な汗を掻いて靴の中が湿ると嫌だから走らないことにした。


学校に着くとやっぱりオレが一番だった。

誰も来てるわけないよな、集合時間の一時間以上前だし。

着替えを済ませ準備を始める。

すっかり準備が終わってもまだ誰も来なかった。

…つまらない。

高野か永野に“そこからダッシュしてこい”ってメールするかな…。

でもそんな子供じみたことなあ…

と思いつつもイタズラ心に勝てなくて、両方にそう送信する。

さて、後何分でくるかな〜♪

メールをしたら気が済んで、シュート練習を黙々とした。


十分後、高野到着。

「…あ?なんだよ、藤真一人じゃんか!なんで急かしたんだよ、オレ、汗びっしょりに…」

「おはよう、高野。朝練しようぜ♪」

オレはいつにもまして文句っぽい高野を笑顔で迎える。

「…ったく、しょうがねえなあ」

高野がロッカールームへ消えると、入れ替わるように永野が勢いよく走り込んできた。

「わ、悪い…集合時間間違えて………
!? なにこれ…、藤真だけって…。なんであんなメール送りつけてくんだよっ、オレがどんだけ焦ったと思って…」

「おはよう、永野。待ってたぜ♪」

「はあ?」

「高野も今着替えてるから、朝の気持ちいい時間に一汗流そうぜ」

「…はいはい。そういうことね…」

荷物を引きずるようにして永野もロッカールームへ消えていった。




「おまえ、夕べ眠れたのか?」

2on1をやりながら高野がオレに話しかけてきた。

「寝たけど、朝やたら早起きだった♪」

目の前でドリブルをしながら高野がため息を吐いて、

「おまえ、テンション午後にとっとけよ。名前ちゃんの前でぐったりなんてことないようにしないと」

と言った。

オレの後ろにいる永野も、

「それから少し冷静になっとかないと。後で後悔するような事態になりかねねえから」

息を吐きながらそう言った。

「分かってるよ♪」

「だから言葉尻の音符を取れって」

「勝手に付くんだ♪」

「オレたちおまえの健闘を祈ってるんだから、頼むぜホント」

「オレもオレの健闘を祈ってる♪」

「大丈夫かなあ、本当に。…付いてってやろうか?」

「絶対来るな」

「あ、普通に戻った。ハハ」


おれたちが夢中になっている間に部員が集まり始め、いつの間にか集合時間になっていた。


今日も淡々と、しかし熱いオレたちの練習が始まる。

まずは陸トレでたっぷり走り込み。

なんてたって基礎体力が第一だからな。

日頃から走るのが好きなオレは今日も楽しく校庭を走り抜ける。

今日の空気はいい匂いだななんて思いながら走っていたら、花形が横に並んできて

「ペース落とせ。おまえ以外はアドレナリンの量、正常だから」

ヒーヒー言いながらそう言ってきた。

ん?と思って後ろを振り返ると、苦しそうな部員たちの姿があった。

なんだ、これくらいでだらしない!

そう思ったものの、親切なオレは一旦休憩をとることにする。

休憩の後は、陸トレは切り上げて体育館に戻って練習開始。


爽やかな汗掻いて、周りの空気がきらめいて、熱を感じて、涼を感じて、ひたすらに夢中になって…。

これって青春?

オレって今、青春してるんだ!

どうりで楽しいと思ったよ♪


県予選で湘北に負けたときは、まさか今年の夏がこんなに充実してるなんて思ってもみなかった。

冬までひたすら過酷だと思ってた。

バスケ、勉強、時々女子。

オレの生活はずっとそんなだと思ってた。

あの日、けじめをつけて良かったぜ。

湘北に負けたことがよかったなんて絶対思わないけど、オレはどこかで変わる必要があったのは確かだったんだろう。

今のオレは、バスケ、勉強、名前ちゃん。

キミに時々会える、定期的に顔を見れる、そのことがこんなにもオレを取り巻く空気を変えたんだ。

…いや、もっと前から…。

キミがオレの心の中に息づいた日から、オレの世界は変わったんだ。

キミを愛しいと思えば思うほどオレの心は切なさを知ったけど、同時にエネルギーにもなった。

バスケも勉強もそのほかのことも、何もかもがそのエネルギーによって充実度を増していった。

確かに、オレって人間は元々しっかりしてるから大抵のことは人より充実してきたけどさ。

なんて言ってると花形に初めてキミに出会った日から数日間のことを愚痴愚痴言われそうだな。

きれい事ばっか言ってんじゃないってどやされそうだからはっきり言う。

キミに会えることが、二人っきりで会えることが何よりオレのエネルギーだってね。

親睦深めたいなあー、深く深く…。



そして練習終了の合図がなった。






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