カルピスソーダ

□♯13
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「喉渇いっちゃった!なんか飲もうか?」

名前ちゃんがそう言ってグイッと伸びをし立ち上がる。

オレは後ろの三人がどうしているか不意に気になって振り返った。


「…」

いつから見てたんだっ!

オレが振り返ると一瞬の沈黙の後、三人してプイッと明後日の方を向いた。

オレたちに背中を向けてたはずがいつの間にかこちら向きに座って、しかもグラスに飲み物を注ぎ、スナックまでポリポリと食べ始めている。

もちろん、手に雑誌や本はない。

代わりに三人でUNOをやってやがるっ!


「よいしょっ」

そう言って立ち上がると、名前ちゃんは

「あ、もう飲み始めてるんだー。声掛けてくれればいいのにー」

とあっちの三人に笑いかけた。

「グラス、足りるかなー」

と言いながら、伊藤の机に近寄っていく。

「多めに用意してって言っておいたから、多分あるよ」

そう伊藤が声をかけた。

「ホントだ。えーっと、藤真くん何飲む?」

クルッと振り返ってオレに笑いかける名前ちゃん。

「なんでもいいよ♪」

オレも体ごとクルリと振り返って、そう微笑みかけた。

「藤真さんはカルピスソーダだよ」

伊藤がすかさずそう言った。

「あ、そうだったね!」

そう言ってカルピスソーダに手を伸ばす名前ちゃん。

そんなこと言わなくていいのにっ。

オレは伊藤の心遣いを腹ただしく思った。

オレのために何を選んでくれるかも楽しみの一つだろうがっ。


さっきの“伊藤は女子にも男子にも人気がある”発言は撤回。

気遣い不足により女子にはそこそこの人気のみ、に訂正だ。


だけどそんなオレの思考も、

「はい、藤真くん」

そうキミにカルピスソーダを手渡されることによりすべて吹き飛んだ。

「ありがとう」

キミにむやみに触らないようにそーっとグラスを受け取る。

もったいないな〜このまま家に持って帰って飾っておきたい、そう思いながらもゴクゴクとカルピズソーダを飲んだ。


美味しい…♪


ふとキミを見ると、美味しそうにグラスの中の飲み物を少しずつ飲んでいる。

キミが自分のために注いだ飲み物の正体が気になったオレは、

「何飲んでるの?」

と、横から聞いた。

「レモン水」

オレの方を向いてただ一言そう答えるキミ。

その瞬間、鼻孔がレモンの香りでくすぐられ、オレの周りは爽やかな空気でいっぱいになった。

キミがレモン水て言っただけなのに…、それだけでオレの世界はこんなにも変わる。

それからオレはキミがああ言ったら…こう言ったら…といろんな単語を浮かべては妄想し、いつかこの耳元で囁かれたら…そう思うだけで顔面が爆発しそうなほどに熱を持った。


ただ一つ気になることが…

小道具なのか、レモン水って…。

あちらとだだ被りじゃねえか…。

オレの方が後ってのがかなり気になる……。


まあ、今回は名前ちゃんに免じて許すけど。



「藤真くんも後で飲んでみたら?おいしいよ。甘さ控えめだって」

そう言ってニッコリ微笑むキミにオレはまた心のすべて奪われた。




なかなか決着がつかない三人の勝負(ウノ)にしびれを切らしたオレは

「いつからやってるんだ?」

と言った。

「…大分前?」

一志が、んー?と首を傾げて言った。

「藤真たちがこそこそし始めた辺りからかな」

と花形がわざとらしく言った。


なっ!?


オレはボボボッと音を立てて顔を赤くした。

真っ赤になりながら口元を押さえ名前ちゃんを横目でチラリと見ると、名前ちゃんも焦ったような顔をしている。

こ、これは…期、期待できちゃったりしてからして…?

「わ、私たち、卓ちゃんの話なんかしてないからね。私、卓ちゃんのことなんて一切聞いてないから!私たち、夏休みどこかに一緒に出かけようって話してたの。ただそれだけだよ。卓ちゃんの学校生活なんて丸きり興味ないから、安心して!」

「…」

「…」

「…」

「…………………」

なにそれーーーーー!


「随分仲良くなったんだな、名前ちゃんと藤真は」

くくく…と込み上げる笑いを俯き押し殺しながら花形が言う。

「あっ…。私が暇だから…。それで、もし良かったらって言ってくれたんだけど、でも、本当は忙しいと思うし…。卓ちゃんに迷惑がかかるようなことはしないから…」

伊藤の様子を伺いながら、しどろもどろに言い訳のようなことを言う名前ちゃん。

伊藤を思う気持ちはよーく分かったけど…オレ、悲しい…。

やっぱりオレに声をかけるつもりなんて微塵もなかったんだね…。

オレの悲しいという気持ちが、伊藤を睨むという動作になって表れたらしい。

伊藤にはオレの人差し指の先にデスビームが見えたという。

オレは単に悲しかっただけなんだけど…な。


そして伊藤はこう言った。

「藤真さんがいいって言うんならいいんじゃない」

バカの一つ覚えがっ!

そんなオレの様子をチラチラと伺いながら伊藤が続けた。

「あ…、オレは別に…。失礼のないようにしてくれれば、それで…。あねきが藤真さんとどう付き合おうと、別に…」

伊藤も極端にしどろもどろになっている。

それをじっと聞いていた名前ちゃんは安心したようニッコリに笑うと、

「一緒に出かけるかもってだけで付き合うとか絶対ないから、安心して!」

と至極嬉しそうに言った。

そうしてオレは伊藤にデスビームを放つ決心をした。
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