カルピスソーダ

□♯12
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「彼氏いないの?」

オレの口から自然とそんな言葉が漏れた。

「うん。だって女子高だもん、って言いたいところだけど、いる子にはいるんだよね。
このままだと大学もエスカレーターで女子大行き決定だし、春は遠いなあー」

そう言って、なーんてね!ってニコッっとした。


オ、オレと…オレと…!!


言える訳ない……。


「名前ちゃんならすぐ見つかるよ、かわいいし。翔陽の女子よりずっとかわいいもん」

また自然とオレの口から言葉が漏れた。

「えっ…」

「?」

「そんなこと言われたの、初めて…」

びっくりした顔をして名前ちゃんがそう言った。

「本当に?気が付かなかっただけじゃない?本当は言われてたんじゃない?」

オレも驚いた。

「どうかな…?そんなことないと思うけど…」

首を何度か傾げてそう言った。

「マジで?なんで誰も言わないんだよ、こんなにかわいいのに。オレなら間違いなく名前ちゃんだよ、名前ちゃんしかいないよっ!」

「…」


あ………!?

何言ってんだよオレーーー!!

バカバカ大バカーーー!!!


「ふっ、ふふふふふ…♪
ありがとう。私、頑張る!
このままいくとまともな恋愛経験もないままお見合いすることになりそうって思ってたけど、ちょっとだけ自信でたよ!やっぱり恋愛結婚したいもんね」

満面の笑みを浮かべて照れくさそうにキミがそう言った。


そう?そう?

じゃあオレ、バカでもなかったかな♪


「藤真くんもカッコイイから、いつでも誰とでもお付き合いできると思うよ!お互い頑張ろうね♪」


え……?

今なんて?

お互いってどういうこと?

お互いって、それぞれってこと?

お互いそれぞれに別々の相手を頑張って探すってこと??


その発言、“最悪男子”より心に痛いー!


そんなの絶対あり得ないって!

オレは認めん!


…オレ、更生したから!

オレ、最良男子目指すから!

キミだけの王子になるからーーー!


そう決心したオレはキミの瞳をじっと見つめた。

声音を低めに調整し、ゆっくりと口を開く。

「あのねえ、この世は恐ろしいところなんだよ。キミみたいなカワイイ子がふらふらしちゃいけないところなんだ。
まして、男を探すなんてことは絶対に言っちゃいけない…。
周りをよーく見てごらん。
…いるよ、素敵な男子が。
…ほらね、目の前にいるでしょ。
キミの王子様が、キミだけの王子様がいるよね、目の前に」

名前ちゃんはオレの瞳の奥を見つめたまま目を丸くしていく。

オレの瞳の奥をじーっと見つめしばらく動かなかった。

そして唐突に口を開く。

「そう言っても女子高だから目の前にいるのは先生だけなんだよ。
しかも、みんなおじいちゃんなんだからぁ」

ふふふー!ってキミが笑う。

オレは思わずズッコケそうになる。

おーい!って叫びたくなる。


こいつは手強い…


「あ…あのね…、とにかくオレは名前ちゃんが変なオトコに傷つけられたりするの嫌なんだ。
別に今すぐ必要って訳じゃないでしょ、彼氏なんて」

「う…うん。そりゃ欲しいけど、今すぐってほどではない…かな?」

「じゃあ、頑張って探さなくっても縁があればいつか現れるから。それまでゆっくり、ね!」

オレはなんとか彼女の周りから他の男の陰を遠ざけようとする。

「そうなのかなぁ。友達はね、頑張らないないと見つからないって言うんだよ」

オレは両手をブンブン振って

「そんなことない!大丈夫だって!」

と言って大きく頷く。

「そう?そっかぁ…。でも…」

「でも…?」

「うん…。…今年の夏も女子同士で遊ぶだけなんだなーって。…でもね、もうみんな彼氏がいていつまでも私とばっかり遊んでくれないんだ。
夏休み明けると彼氏とどうしたって話が主流だし…。
…でも今年は一応受験生だから、勉強してたってコトで自分を誤魔化すか…」

大きなため息を吐くと肩を丸めてしょんぼり、そんな言葉がぴったりの姿になった。

オレはちょっとした罪悪感に苛まれる。

キミの人生計画を邪魔したい訳じゃないんだけど…。

「だったらオレのこと誘ってよ。バスケの練習ばっかりで他に何にもないし。
行きたいとことか見たいものとかあったら気軽に誘って。バスケ部の日程表は伊藤も持ってるし、練習以外の時間は大抵空いてるから!たまにはいいでしょ?」

そう言ってニッコリ微笑んだ。

「…どうもありがとう」

名前ちゃんはそう言って込み上げる笑いを押し殺すように俯いた。

「やっぱり藤真くんて、優しいんだね」

クスクス笑いながらそう言った。



突然、オレの心臓が大きく鳴り出した。

オレ今、大それたこと言わなかったか…?

流れに任せて恐ろしくチャラい発言しなかったか?


名前ちゃん、クスクス笑ってる…!!

軟派な男だと思われたかも!


ドキドキドキドキドキ…


心臓が猛烈な勢いで鼓動を続けて全身汗びっしょりになりそうなほど熱い。

なのに顔面と手足の先だけ血の気の引くような感覚になる。


まだ笑ってる…

オレ、頭がクラクラする

もう嫌だ…

オレは更生したんだ

更生して硬派に生まれ変わりましたって叫びたいーー



「じゃあ、お言葉に甘えて一回付き合ってもらおうかな〜」

…一回?

一回付き合ったら、オレもう別れる気ないけど!?

「どこがいいかな〜?」

あ、その話か…

一回!?

一回なんてヤダよっ、なんだその遠慮はっ

「一回なんてそんなケチな…何回だって付き合うよ、どこにでも行くし、遠慮しないで」

オレはキミの目をじっと覗き込んでそう言った。

「…うん、ありがとう…。あ、あのね、その場合だけど卓ちゃんも誘った方がいい?」

なんとーーー!?

なんで伊藤がこの場に出てくるんだ!?

伊藤なんかあっち行け!に決まってるじゃないか!


…待て。

伊藤は彼女の弟で、さっき姉バカだって発言もあったし…無下にはできん。

まさかブラコンの域にまでは達してないだろうから…今までの感じからしてもそれはない。

ほっといても伊藤が付いてくることはまずないけど…

でも、この場合ははっきり断っておいた方が誤解はないな。


「卓ちゃんはいいよ、オレが一緒だと気を使わせるし。オレ、勉強教えに来たりもするしあんまり密着度高いと息詰まるから、卓ちゃんが。だから、卓ちゃんは抜きで。卓ちゃんは誘わなくて全然いいから」

「そう?でもそうすると私と二人っきりになっちゃうよ?」

「うん」

それがいいんだ♪

「大丈夫?」

「もちろん」

願ったり叶ったりだよ♪

「じゃあ、そのうちね!」

ガクッ…


そのうちっていうのは断るときの言葉だよ、分かってる??


でもオレそんなことじゃめげない…!!

「楽しみにしてるよ♪」

余裕ぶって微笑むオレ。



そうしていつの間にか、更なる楽しさと安心を与えられてたのはオレの方だった。
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