カルピスソーダ
□♯12
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そう言われると、最悪男子のオレとしては急に自信がなくなる…。
でも伊藤の事に偽りはないから、オレに落ち度はないとして…。
キミがオレを名指しで非難した訳じゃないけど、オレはもう二度とあんなふしだらな生活はしないけど、最悪って言葉がオレの心を貫いた。
オレは小声で一つ質問をした。
「もし、伊藤が名前ちゃんがさっき言ったみたいな最悪男子だったらどうしてた?」
名前ちゃんは驚いたように目を見開いた。
「え?やっぱりそうなの!?」
そう言ってオレをじっと見つめる。
「もしもだよ。あんなに心配してたから、もしそうだったらどうしてたのかなって」
キミの態度の変わりようが面白くて、くくっと笑ってしまった。
なあんだーと言ってキミは少し考えるよう首を傾げた。
「そうだなぁ、取り敢えずは説教かなぁ。両親には言えないから部屋に押し入ってね、胸ぐら掴んで往復ビンタ!」
…コ、コワイ…
「なあんてね、ふふ♪暴力は奮わないよ!
でも…、そこまでなるのって本人だけが悪いんじゃなくて、回りもちやほやし過ぎてたりもすると思うんだよね、許してきた人たちがいて成り立つ訳だから。
今後は私が姉として全力で厳しくするかな、更生するまでね、ふふ」
「更生したら…いいの?」
オレはその先がすごく気になって真面目に突っ込んだ。
もしもの話に真面目になるオレを不思議に思ったのか、名前ちゃんがきょとんとさせた目をオレに向ける。
「うん、更生すれば許す。
卓ちゃんが人を大切にすることの大事さに気付いてくれればそれでいいから。
後は、卓ちゃんが大切にしたいって思える人に出会えればいいなって思う。
それを探すのは卓ちゃんだから姉の出番はナシだよね。
…でも、」
そう言って言葉を切ったキミは遠くを見るような目つきをした。
「でも?」
オレはその先の言葉が聞きたくてキミを促した。
「うん、でもね、最初から要らない心配だったって今、気付いたの。
だって卓ちゃん、バスケ部のことやバスケ部の人たちのことをすごく大切にしてるんだもん」
「大切にするのはバスケでもいいの?女の子じゃなくてもいいの?」
「ふふふ☆
最終的に男の人を連れてきたらそりゃ驚くけど…、今は十分なんじゃないかなあ?
だってあんなに夢中になって、だからもしもそれで知らぬ間に誰かを傷つけてしまっていても、私は許してあげたくなっちゃうな。
だって私なんて一つのこともままならないもん。
なのに卓ちゃんはあんなに一途に向き合って、その仲間たちを大事にしてる。そんな人が不誠実な人間だなんて思えないんだもん。
卓ちゃんのバスケ部の人たちに…藤真くんたちに会って、本当にそうだって思えるんだもん。…ちょっと姉バカ過ぎるかな?」
そう言ってふふふと笑った名前ちゃんがふとオレを見上げて、
「卓ちゃんが藤真くんたちみたいなしっかり者になってくれるといいんだけど」
と言った。
「…」
オレは…
キミの瞳に映るオレは一体どんな人間なんだろう。
おまえは一体何者だってキミの瞳の中のオレ自身が問いかけてくるような気がした。
…もしキミの言葉が真実だとしたら、オレはきっと許されてる、そんな気がした。
キミだけには許されてる、そう思った。
オレってこんなオトコですって告白するつもりはないから、オレの心の中だけのことだけど。
でもそれで十分だ。
オレ自身が改めればそれでいいんだ。
悔いて反省して前を向けってキミはそう言ったんだ。
それにオレは故意に女子を傷つけたり、無理矢理押し倒して強姦まがいのことをしたこともない。
責任ないとは言わないけどさ。
いつだって最終的にはオレが酷い言葉を浴びせられて傷つけられてきた気もするし。
…なんつって、オレって人間は傷ついたりしないんだけど。
気分は悪いけどな。
だからって訳じゃないけどキミが言う最悪男子とはちょっと違うと思うし…せいぜい“最悪一歩手前くらい男子”じゃないかと思われる。
それにバスケに対する一途さやひたむきさなら、オレは伊藤に負けない自信がある。
オレにはこれまでバスケ以上に大切なものなんてなかったし、守りたいと思うものもなかった。
自分自身のことよりずっとずっとバスケ部が大事だった。
キミの言う通りなら、オレは不誠実な人間の枠から外れてるだろ。
だからオレは前を向く。
キミの“最悪男子”って言葉はオレには往復ビンタに匹敵するくらいの威力があったし、後悔と反省のし過ぎは人を後ろ向きにするだけだから。
「伊藤はああ見えて結構しっかり者だよ。花形や一志を見て判断されちゃうとつらいものがあるかな。こないだいた高野や永野だってしっかりした方なんだぜ、…バカだけど。
ひどいヤツなんてキノコ生えそうってくらい不潔だし、生えたキノコ食ってんじゃねえのってくらい何にも考えてないから」
「えー!?」
オレの話しに目を丸くする名前ちゃん。
オレは調子に乗って話を続ける。
「本当だよ。共学だってそうなんだから男子校だったらもっとヤバイだろうね、見ちゃいけないってのがいるはずだよ」
「うそー!?」
「ホント!もう何考えてるか分かんないヤツばっかだからオトコなんて。安易に近づかない方がいいよ、せいぜいオレたちくらいまでにしといた方がいいよ」
「ふーん」
急に真顔になる名前ちゃん。
「あ…、えと…その…」
ああオレ、言い過ぎたー調子に乗って完全言い過ぎたー!
ニコニコ聞いててくれるもんだから、口が滑っちゃったーーー!!
「ねえねえ」
真顔から一転、瞳からキラッと光を放ってキミが言う。
「バスケ部の人たちって人気あるでしょ?」
「えっ?」
「だってみんなカッコイイもん、長谷川くんも花形くんも藤真くんも。
モテるでしょ!」
ニマニマッとして、好奇心を隠すことなくストレートにオレにぶつける。
「…でもオレたちバスケばっかりだから…。一志と花形は彼女いるみたいだけどオレはいないし。アイツらがどうやって彼女とうまく付き合ってるか知らないけど、毎日がバスケばっかりだから難しいんだよ、オレなんて不器用だから…」
「そうなんだー。でもやっぱりモテるんだね!」
「え…!?」
「だって否定しなかったもん♪」
「そ、そうだった!?」
「彼女、欲しくないの??」
欲しいよ、欲しいけど、…じゃあキミを下さい♪なんて言えないしー!!
でも要らないとも言えない!!
これって究極………
「欲しくないっていったらウソかなあ」
オレはそう答えた。
「告白されないの?」
「え…」
たじ、たじ…
「やっぱりされるんだね」
「あ…」
「付き合ってみないの?」
間髪入れないこの感じ…尋問ぽい…
「好、好きな子じゃなきゃヤダから…」
ポッ…オレの顔がピンクに染まる。
「好きな子いるんだ♪」
何故に“♪”?
「どんな子?かわいい?教えて!」
待って、ちょっと待って!
オレ、なんて言えばいいんだよーー!
「……オレ…バスケばっかで…学校ではそういうのなくて…」
何で怒られてた子どもみたいな感じで答えてんだよー!
「うん」
「だから学校ではそんな感じで…。でも、イメージはあって…」
「なんの?」
「だ、だから…好、好きな子の…」
「うん!」
「…」
「どんな子?」
や、やっぱり答えるんだね…
「えっと…や、優しいとか…?」
「うん」
「か、かわいいとか…、せ、性格が、性格がかわいいとか…」
「うん」
「よく笑うとか…」
「うん」
「善悪の判断とか…けじめとか…」
「うん」
「…もっと?」
「えっ!?ああ、もういいんじゃない?」
「…ふぅ…」
「結構普通なんだね」
「えっ?」
今度はなに??
「強いこだわりがあるのかと思ったら、わりと普通だったから」
ニコニコっとして名前ちゃんが言った。
「あ、うん…」
オレなんて所詮平凡な男だよ。
「こういう人じゃなきゃヤダっていう願望があるのかと思ったから…。
えと、しつこく聞いちゃってごめんね」
「…」
キミじゃなきゃ嫌なんだけど、キミがいいって願望とこだわりがあるんだけど…。
「そっかぁ、共学に通っててもそんなもんなのかぁ」
キミはまた少し遠くを見るような目つきをした。
憧憬を見ている、そんなまなざしだった。