カルピスソーダ

□♯11
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ち、ち、近い…!!!

そんな至近距離で見つめられたら…

ちょっ…上目遣いはダメだってばーー

わああ!

囁かないでーーー!!

唇、唇、尖らせないでーーー!!

あーーーー!!

吐息がかかったらオレ…!!!

………


ガクン。




「藤真くん、藤真くん!?」

かすかな声…キミがオレを呼んでいる。


ゆさゆさ…。


膝を揺すられて、オレの意識が回復する。

「大丈夫?どうしたの急に…」

ぼんやりしていた焦点が定まってキミの目に映るオレの姿を確認する。


「あ、ちょっと考え事…」

オレは前髪をクシャリと掻き上げて視線を下げた。

目を丸くしている名前ちゃんの位置はさっきとほぼ変わってない。

そのことからすると、オレが意識を飛ばしたのは一瞬だったらしい。

しかも、吐息がかかるほどには近づいてない…。

オレは途中から妄想の世界にダイブしたようだった…。 

正座の姿勢で片手を床につき前のめりにジッとオレの様子を見つめる。

落としたオレの視線の先にはキミのTシャツのスクエアカットの胸元が…。

前のめりになってる分、皮膚との間にわずかな隙間が出来て、中に来ているキャミソールのレースの向こうが…。


ダ、ダメだ、ダメダメ!!


頭を振って煩悩を捨て去ろうとする。


「…大丈夫?」

キミが不安げな瞳でオレを覗き込む。

「うん、大丈夫、大丈夫…」

そう言って名残惜しい視界に別れを告げて反対側に目を移す。


「…そんなに卓ちゃんて女の子たちに評判悪いの?」

床に着いていた手を膝の上に載せて、俯いたキミが小声で言った。

「…え?」

オレは何のことだか分からず聞き返した。


息さえも漏らさないように、向こうの三人に背中を向け、オレにしか聞こえない声でキミが言う。

「隠さなくていいよ。卓ちゃん、なんかしたの?時々女の子とメールしたりもしてるみたいだから、まさかそんな風に思われてるなんて思わなかったんだけど、…なにかしたの?」

膝の上で握りしめている手に力が入り、手の甲に青い血管が浮いている。


オレは、意識を飛ばす前のキミとの会話をようやく思いだした。

マズイ、オレの挙動不審のせいで伊藤に無実の罪が…

「そ、そんなことないよ」

オレも花形たちに背中を向け、顔を寄せてキミだけに聞こえる息とも言える声でそう言った。

キミは意志のこもった瞳でオレを見上げ

「私にだけでも教えて」

と言った。

困った展開になりつつある。

「本当に、本当になんにもないよ、
伊藤は結構女子に人気あると思うよ」

オレは大きな声を出せない分、眼光で真実を訴える。

「でも、藤真くんさっきあんなに困ったような顔したじゃない…。
もしかして、女の子を泣かせちゃったりしたの?
次から次へと女の子と付き合ったり、面倒くさくなるとバスケが忙しいとか言って突き放したり、好きでもないのに…関係しちゃったり…、ちょっとモテるからってやりたい放題、そんな最悪男子だったりするの?」

キミが真剣に、それは真剣にオレに問いかけた。


はい、その通りですってつい答えそうになる口を必死で押さえる。


この質問は伊藤のことを聞いてるのであってオレのことを聞いてるんじゃないんだ。


「…いや、そんなことは絶対ないよ。伊藤は誠実な男だし、女子にも男子にもそれなりに人望も人気もあるヤツだよ。
オレは伊藤は後輩だから部活以外の学校生活の方までは詳しくは知らないんだ、だからちょっと思い出してたっていうか考えてたっていうか…。そのせいで誤解を与えちゃったね、ごめんね」

オレは小声ながら必死になってキミに言った。

伊藤の真実を伝えたくって、曇ったキミの表情を晴れさせたくて。

「本当?」

オレの目をじっと覗き込んで、キミが真偽をはかっている。

オレは嘘も偽りもない真っ直ぐな目をキミに向ける。

オレの目の奥を穴のあくほど見つめ、

「藤真くんがそう言うなら本当にそうなんだね」

そう言ってキミはニコっと笑った。
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