カルピスソーダ

□♯11
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ふうー、やれやれ…


名前ちゃん以外のメンバーに安堵の空気が流れる。

オレもドキドキしてる場合じゃない、必死で止めにかからないといつか行かれてしまう…
そう思った。


再び花形がサッとカードを束ね、バババッと切って、パパッと配った。


見事な手際に感心する。

詐欺師なんて言ってられない、ありがたいくらいだ。


「今度は逆回りにするか」

一志の提案でそうなった。

今度はオレが名前ちゃんからカードを引くんだな。


まずはさっき一位だったオレのカードを一志がひく。

そう、オレは名前ちゃんにババを押しつけときながら、こんな時ばっかりトランプの強さを発揮して一位で上がっていたのだ。


サッ、サッ、サッ、サッ。

あっという間に一巡しオレがカードを引く番になった。

オレも流れに合わせてサッと引く。

オレの手札とペアになるものはなかった。

すぐにまた一巡する。

二巡目はペアになるカードがあって場に捨てる。

オレの持ち札は三枚になった。

もともとペアになる枚数が多くて枚数が少なくなっていた。


一体誰がババを持ってるんだ?

今回はまるで気配がない。

ということは花形か一志あたりだな…。

オレはそう目星をつける。


その後、オレのところへババは一向に回ってこないものの、ペアになるカードもパタリと来なくなって、引いては一枚増え引かれては一枚減るを繰り替えしていた。

いつの間にか伊藤と一志が上がって、残り三人、ゲームはさっきとは違う展開を見せていた。

さっきはオレが一位で上がった後、すぐに決着がついていた。


恐らくババは花形が持ってるが…。


花形はオレから引いたカードがペアになったようで残り二枚だったカードがとうとう一枚になった。

名前ちゃんがそれを引いて花形があがり。


と言うことは…オレvs名前ちゃんてこと?


名前ちゃんが花形から引いたカードを確認すると

「ふふ…」

と思わず笑いを漏らした。

花形も笑った、展開を見守っていた一志と伊藤も笑う。

オレだけのけ者っぽくてちょこっと妬ける。


「ふう…」

小さなため息を漏らしてオレに向き直り、サッとオレの前にカードを広げた。

名前ちゃんが四枚、オレが三枚。

しばらくこの遣り取りが続く予感。

オレたちは並んでいた姿勢をを向き合う形に直して勝負を再開させた。

オレが一枚カードをひく。

ペアのカードを場に捨てる。

オレのカードをキミが引いてペアのカードを場に捨てる。

次だ。

オレがババを引かないと名前ちゃんの負けが決定する。

なんとかババを引いてあげたくてじっくり吟味する。

キミの瞳の動きもチェックしてどれがババか吟味する。

オレの能力を最大限使ってババを探り出す。

…よし、これだっ!

パッと引き抜き確認する。


ほーらやっぱりね。


オレは満足げにババを手札に加える。

名前ちゃんは、あっ!という顔をしてオレの目を申し訳なさそうに見た。

オレが望んでしたことなんだからいいのに、本望なのに。

オレに見せてくれた気遣いが嬉しくて、オレはキミにふっと微笑み返した。

オレはわざと一度だけカードを纏め、すぐにすっとカードを広げた。

ババの位置が分からなくならないようにするためだ。

一瞬不思議そうな顔をしたものの、ちゃんとババのある方と反対のカードを引いた。

そしてペアのカードを場に捨てた。

オレが一枚引いて場に捨てる。

残り、オレが二枚で名前ちゃんが一枚。

これでキミが上がって終わりになるって思ってたのに…。

まさかここからとんでもない攻防が待っていようとは…。


オレは二枚しかカードを持っていないのだから50%、二回に一回の確率でノーマルカードをひくはずなのに、オレから100%の確率でババを引ていく名前ちゃん。

オレはその度にババを探り当て引き戻す。


この子、オレに遠慮してるのか?って疑ったりもしたけど、どうやら素のようだ。


「えいっ」

「えいっ」

お互いそう言いながら何分そんなことを続けただろう。

とうとうオレの勘が鈍った…。

ノーマルカードを引いしまったのだ。


………ガーン………


青ざめるオレ…。

カードを見つめたまま固まった。


「あーあ、負けちゃった!」

名前ちゃんがそう呟いてエヘってオレに笑いかけた。

その言葉を聞いたオレは持っていたペアのカードを場に戻した。

名前ちゃんもババを場にそっと戻した。


残念だったな、勝たせてあげたかったのに…。


カードを両手で纏め始めた名前ちゃんの動きが止まった。

「あれ?」

何かに気付いたように声を出した。

オレは名前ちゃんの視線を追った。


視線の先には花形と一志、伊藤の姿があった。

それぞれに完全にくつろぎ、集中さえしている様子だった。

オレたちは一体何分間不毛な戦いを繰り返していたんだろう。


花形は本を、一志と伊藤は雑誌をそれぞれ読んでいる。

しかもオレに気を遣ったのか、全員こちらに背中を向けていた。


そんなことにも気付かず二人の世界に夢中になっていたオレ。

そのことに今気づいたらしき名前ちゃんも、オレとの世界に夢中になってくれてたってことかな…。

なんつって…くふふ。




「楽しかったね!」

名前ちゃんがオレに向き直りそう微笑みかけてくれた。

オレはニコッと微笑み返したけれど、もしかしてオレに気を使ってくれてるのかなって思った…。

「うん。でも…」

オレがそう言いかけると、

「申し訳なさそうな顔したでしょう、最後のカード引いたとき。
優しいんだね、藤真くんて。
卓ちゃんなんて私に勝つと諸手を上げて喜ぶよ」

ふふって笑って言った。

「ハハ☆姉弟だからだよ。伊藤も学校じゃそんなことはしないよ。だけど、家ではそんなだって知ったら女子は驚くだろうな」

そう言ってオレが笑うと、

「卓ちゃんて、学校で女の子にどう思われてるの?」

目をいたずらに見開いて、オレに近づくと小声で囁くように言った。
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