カルピスソーダ

□♯10
2ページ/3ページ

「じゃんけんぽん!」


誰かが音頭をとってじゃんけんをした。

伊藤が勝ったらしくそこから時計回りということになった。

伊藤のカードを花形が引く。

ということはオレのカードを名前ちゃんが引くということか…。


ふふふふふ…。

じっくり選んで引いてくれるかな〜。


「藤真、おまえがオレのカードをひく番だぞ」

一志がオレに声をかけた。

オレは選びもせずサッとひいた。

たまたまペアになるカードがあってパッと場に捨てた。

オレは名前ちゃんに向き直る。


さあじっくり選んで♪


パッ。


スッ。


クルッ。


「はい卓ちゃん」


えっ?

それだけ?

心理的攻防も駆け引きもお目目も何もないじゃないかよーーー!

…。

はっ!!

…そっか。

本人がババを持ってるから緊張感も何もないのか…。

くうっ…。

でもこんな近くでたった一瞬でも正々堂々向かい合えたんだ、ババ抜きに感謝…!


オレがそんなことを思っているうちに、名前ちゃんと伊藤の間で駆け引きが始まったようだ。

どうやら血縁関係による勘でも働いたのか、伊藤も名前ちゃんがババを持っていることを気づいたようだ。

「なんか怪しい…」

そう言って取るカードを迷っている。

「そお?」

名前ちゃんはしらばっくれているが、演技が下手くそ過ぎて笑える。

花形と一志も今ので気付いたはずだ。

ところが伊藤は

「やっぱり違うのかなぁ、じゃあどれでもいっか」

なんて言っている。

…おまえってやつは。


そして一番右端のカードをさっと取った。

その瞬間、名前ちゃんの肩が震えた。

その次の瞬間、伊藤の顔が歪む。

更に次の瞬間、姉弟間で視線によるなんらかの遣り取りが行われ、お互い沈黙のまま向き直った。


名前ちゃんの肩が未だ震えている。

笑いが堪えられないらしい。

その様子がかわいくってオレは目が離せない。

じっと見つめていたら、また視線を上げた。


バチッ!


オレと目が合った。

堪えきらない笑みをたたえたまま、オレを見上げる。


ドクン…。


オレの心臓が今日何度目かの不整な脈動を打つ。

今度はふふっと満足そうに故意にオレに笑いかけたように見えた。

オレがキミがババを持ってることに気づいてるって気づいてたのかな…。



またオレが一志から一枚引く番になった。

オレは伊藤が持ってると思って何も考えずにさっと引く。

その瞬間、一志が得も言われぬ笑みを浮かべた。


あっ!!


くそ〜っ!!


名前ちゃんばっかりに夢中になって場の雰囲気を読むのを忘れてた。

なんと、二巡目にしてオレの手元にババが回ってきてしまったのだ。


オレは手元で手札を一つにまとめる。

再度広げて名前ちゃんに差し出す。

その動きを見ていたであろう名前ちゃん。

ふっと一瞬笑った。

そしてじーっとオレのカードを見つめる。

そんなに見つめられると…手が震えちゃうー。

今度はじーーーっとオレの目を見る。


ボボボボボンッ!


オレの顔から火が出る音。


嬉しいけど、目が合わせられないーーー!

そんな目で見つめられたら吸い込まれちゃうんだよ、オレの意識は…。

恐るべし…ババ抜き………。


意を決したようにサッと一枚のカードを名前ちゃんが引き抜いた。


あ!!

そのカードは!


あんなにじっくり選んでたのに…。

四分の一の確率なのに…。

オレのこと恨むかな…。

嫌だよそんなの…。

名前ちゃん、そのカードは…!!!


「あっ!」


オレから引き抜いていったカードを確認するや否や思わず声を上げる名前ちゃん。

オレ以外の三人が、クスクスと苦笑する。

おまえら悪趣味だぞ、人の不幸を!!

そして引っ込めようのない声を出してしまった口を慌てて押さえるキミ。


あーあ…。


オレは心の中でため息を吐く。

キミは手元のカードを手のひらの中で一纏めにして握ると、オレの方をを見た。


お願い、そんな目でオレを見ないで…。

オレだってキミにババを渡したかったんじゃないんだ。

出来ればオレの手札を全部見せて、好きなのをとっていいよって言ってあげたいくらいだったんだから。

お願いだから目だけでオレを責めないで…!


オレは切なくって切なくって泣き出しそうな瞳でキミを見つめ返した。


キミはそんなオレをじっと見つめると、唇を尖らせてアヒルのような口をする。

そうして次の瞬間には目を細めニコっとイタズラっぽく笑う。

さっと伊藤に手札を差し出し

「どーれだ」

なんて言って伊藤を挑発している。


か、か、かわいい…かわいい!

かわいすぎるーーー!!


オレはその場に倒れ込みそうになるのを必死で堪えていた。




そしてとうとう…。


結局オレから回ったババが名前ちゃんの手元から移動することなくゲームが終わった。


オレのせいじゃないけどオレのせいっぽくて胸が締め付けられる…。


「あーあ」

とほっぺたを膨らませババを場に置く…ちょっと待て!

この段階では迂闊に喜んでいられないんだった。

確か更なる楽しさと安心をキミに…だったはず。



「じゃあ…」


そう言って立ち上がろうとする名前ちゃん。


まさか…!


花形と一志と伊藤がオレを見ている。

これでもかってくらいに目を見開いてオレを見ている。

「もう一回やろうか」

オレがそう言うと、上げかけた腰を下ろして

「もう一回?」

と言った。

「うん、もう一回。ねっ」

オレは必死に微笑みかける。

「じゃあ、もう一回」

とキミが微笑んだ。





後書き→
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ