カルピスソーダ

□♯9
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そうしてオレたちは七並べを始めた。

それが、とんでもない白熱ぶりを見せることになった。


オレがジョーカーを持ってることが知れてるばっかりに

「さっさとジョーカー使えよ、みんなのことも考えろって」

とか

「藤真さんのせいでパスします」

とか

「うーん…。ここは藤真の策略によりオレはパスってことになるな…」

なんて言いたい放題言って、オレの動揺を誘う作戦に出られた。

だいたい、オレのジョーカーを攻めるよりおまえらがダイヤの8とクラブの6を止めてるだろうが!


意外にもオレの脳は小パニックを起こしカードを出す順番を間違えてしまった。


ターンが進むごとに不利な人間の悲鳴が大きくなる。

「いじわるしてるっ!」

「要するにそういう人間性ってことだろ?」

「…オレ、万事窮すです…」

伊藤がパス四回でこのゲームのリタイアを告げた。

残り三人…ジョーカーを持っているオレは絶対に負けないっ!


伊藤がため息を吐きながら持ち札を場に並べる。

呆れるほど弱くて笑えた。

並べ終えるとオレたちの後ろを徘徊してカードの確認をしている。

一週し終えると、

「ふーん。オレにいじわるしてたのがまさか…さんとはねえ。あんなこと言ってたくせに。
オレ、絶対藤真さんだと思ってたから…人間不信になっちゃうな」

負けて尚、オレたちを動揺させる作戦に出る。

そしてオレたちの攻防を余裕のまなざしで見つめクスクス笑っている。

「伊藤黙れ、気が散る!」

オレがそう言うと

「藤真、上品な笑い!」

花形と一志からツッコミが入る。


数分間の睨み合いの末、花形が勝った。

オレは二位。

最後にジョーカーを握らされた一志がドンケツで伊藤が三位に浮上した。


「ああ、なんでオレがビリなんだよ」

一志が頭を抱えている。

「おまえ、クラブの6止めてただろ。罰当たったんだよ」

「花形には言われたくない!ダイヤの8と1最後まで出さなかったろう」

「いがむな」

オレがそう言うとみんなで笑い合った。

なんか妙な汗掻くなーなんて言いながら。


そしてすぐに、もう一戦行こうぜーと再び戦いが始まった。




今度はオレがぶっちぎりで一位だっ!





初回は花形がカードを配ったが次からはビリが配ることというルールができた。


結果は何度やっても同じようだった。

伊藤は何度もリタイアから三位に浮上し、オレは一度だけ一位になった。

伊藤はそんな結果に納得がいかなかったのか、

「配り方に悪意を感じるので、オレが配ります」

訳の分からないことを言って自ら配った回もリタイアしてた。

さらに

「花形さんの前のカードがいい」

と言って交換してもらっていたがやっぱり同じだった。

さすがに

「なんで…」

って泣きそうになっていた。


「七並べってのは人のいいヤツほど弱いんだ。オレと伊藤は勝てないって決まってるんだ、諦めろ」

そう言って一志が伊藤を慰めると

「オレに一番意地悪してたの…長谷川さんでしたよね…」

とそっぽを向いた。

「直接おまえを狙い撃ちしてた訳じゃないそ!」

一志が慌てて言い訳をする。

なんだかその様子がおかしくてみんなで笑った。


「伊藤、いがむなよ。勝負は時の運だぜ」

オレがそう言うと、

「次は絶対勝ちます!!」

と言ってカードを両手で切り始めた。




その時、

トントン

と伊藤の部屋の扉を叩く音がした。


!?


目を見合うオレたち。

伊藤が立ち上がろうとするのを花形が押さえる。

そして小声で

「待て、もう一回叩いてからにしろ」

と言った。

オレが時間を確認すると一時四十分だった。

昼飯を食べ終えてから四十分だ。

結構早い。






トントントン!


さっきよりも幾分大きく叩く音がした。

回数も増えてる。


花形が伊藤に目で合図をし伊藤が立ち上がった。

戸を開ける前に

「はい」

と少しだるそうな声を出した。


「お茶、持ってきたけど」


扉の向こうから聞こえるのは…名前ちゃんの声だ。

オレの心拍数が加速度を上げる。

「藤真、落ち着け」

一志が囁いた。


ガチャリ!

扉が開く。

「はいこれ」

扉の向こうでトレーのようなものとビニール袋を伊藤に渡している。

伊藤の背中で姿が全く見えない。


「じゃあ」

名前ちゃんの声がした。


待ってー!!


オレは心の中で叫ぶ。


「藤真さんっ!」

伊藤が振り返ってオレを呼びつけた。

切羽詰まった様子にオレは飛び上がって駆け寄った。

「コレ!お願いします!」

伊藤がオレにトレーを押しつける。

ガラスのコップとおしぼりが載っていた。

「おう」

オレはそれを速やかに受け取った。

廊下には名前ちゃんが、ふふ…と笑って立っている。


顔が熱い…


伊藤がスーパーの買い物袋の中を急いで見て

「カルピスソーダがないから持ってきて。
ついでにお菓子も持ってきて」

と名前ちゃんに言った。


「…それだけじゃなかったの?」

「うん、お願いだから」

「じゃあちょっと待ってて」

そう言うと名前ちゃんはスタスタと階下に下りていった。
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