カルピスソーダ

□♯7
1ページ/2ページ

とうとうその日がやってきた。

今日は朝から落ち着かない、実は夕べから落ち着いてない、嫌、その前から?

確か鼻血を出してからずっと落ち着いてない。

人に言わせるともうずっと落ち着いてないだろうって言われるけれど。



頭がふわふわして…

多分、大量出血したから血が足りてないんだと思う。

だから、今朝は朝ご飯と一緒に鉄分ヨーグルトを飲んだ。




アイツら結局、あの場で…もうからかわないって言ったくせに、

「どんな想像してんだ」

「二人っきりで会うようになったって、そんなことはずっと先、先も先、大人になってからだぞ!」

「汚らわしい」

「とにかく頭を冷やしとけよ」

言いたい放題言って白い目で見ていた。

そんなんじゃないって言ってるのに!




朝ご飯を食べ終えるとオレは身支度を整え、清潔なブルーのハンカチとポケットティッシュ、爽やかな香りのするデオドラント、下ろしたての靴下、アイロン済みの替えのYシャツをバッグに入れ、洗い立てのスニーカーを履いて家を出た。




体育館では、いつも通りのメニューをオレを含めた部員たちがこなしていく。

淡々と時間が流れていく。

時間が過ぎるのがゆっくりに感じられるかと思ったのに、今日に限って早く過ぎていくように感じた。



そしてなんだかんだで部活動終了。

待ちに待った時がやってきたっ!

オレは汗くさくならないよう最大限体を洗い流す。

顔は洗顔料を使って洗う。

花形と一志にも同様にさせた。


そして、家から用意してきたものに間違えなく身を包み、デオドラントをシューッと吹きかけて身支度完了。

鞄を肩から背負って準備万端整った。



「じゃあ、行きましょうか」

伊藤が頃合いを見計らって声をかけてきた。


体育館を出て四人で歩き出す。

高野と永野が手を振っていつまでもオレたちを見送っていた。



「昼、どうする?」

「臭くなるのは嫌だ」

「じゃあ…」

オレたちの遣り取りを聞いていた伊藤が

「あの…昼飯もオレんちで食いませんか?」

怖ず怖ずと言った。

「いや、そう言うわけには。お邪魔するだけだって図々しいのに昼まで用意してもらうわけにはいかないからな」

一志がそう言うと、

「あの、そうしろって母が今朝言うもんですから、そうするって言ってきちゃったんです…」

顔を赤らめ俯きながら申し訳なさそうに言う伊藤。


「気を遣わせたな」

「いえ、父が挨拶したいから早く連れてこいって言って、父は午後から仕事なんで…」

花形の言葉に伊藤が一生懸命言い訳をする。

「そういうことなら遠慮なく甘えさせてもらうか」

花形が伊藤に微笑んでそう言うと伊藤はパッと顔を明るくした。

「オレんちここから十五分くらいですから」

そう言って伊藤は歩を早めた。


一気に緊張するオレ。

梅雨時とは思えない炎天下の道を伊藤の早足に合わせて歩く。

伊藤は普段よりかなり多弁で、一志や花形がそれに笑いながら答えている。

オレはずっとそれを遠くに聞いていた。

なんかのぼせそう…そう思ってると


「ここです」

伊藤が不意に足を止め、一軒の家を指さした。

オレは思わず伊藤の背中に鼻から突っ込んだ。

「イテッ…」

鼻を押さえながら指された方を見上げると、庭の広いきれいな二階建ての家が重厚な門扉の向こうにあった。


「高級住宅街に入ってきたとは思っていたが、おまえんち、なかなか凄いな」

花形がメガネの奥で目を丸くしている。

花形のこんな顔は滅多にお目にかかれるもんじゃない。

「祖父の代からこの辺に住んでるんで、土地だけは広いんです」

伊藤が既に言い慣れてる風な言い訳をした。

誰が訪ねて来ても一様の感想を持つんだろう。

そしてオレは今日の人選にミスがなかったことを確信した。

っつうか、あいつらは今後も絶対連れて来ねえ!

オレはそう決心した。


「行くぞ、藤真」

一志に促されてオレも三人に続いた。

庭は一面芝で覆われ、塀に沿ってところどころ木や石が配置されている。

その隙間を縫うように花々が咲き乱れていた。

「バラ、きれいだな」

オレがそう言うと

「父の趣味なんです」

伊藤が立ち止まってその方を見遣り、恥ずかしそうにそう言った。


「バスケットリング…」

今度は一志がそう言った。

オレが見ていた方とは反対側の庭の奥に確かにバスケットリングがあった。

そしてその前方下数メートル四方がコンクリート敷きになっている。

「なんかすげえな!」

オレが素直な感想を口にすると、

「あ、あれは…小学校の時に…」

伊藤が恥ずかしそうに言った。

「でもリングの高さ、ちゃんと合ってるじゃないか」

「ええ、まあ…」

一志の指摘に顔を赤らめる伊藤。


「さあ、もたもたしてないでご挨拶をしようぜ」

花形の言葉をきっかけに、オレたちは大小様々な石からなるアプローチを歩き玄関の前に立った。


普通の家の1.5倍くらいある玄関の扉をグイッと引き大きく開けると

「ただいま」

と伊藤が家の奥に向かって声を掛けた。

オレたちは扉の外で待機している。

いつの間にかオレを真ん中にして一志と花形が立っていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ