カルピスソーダ

□♯5
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オレの前に直立し、緊張の面持ちを崩さない伊藤をオレの横に座らせる。

「伊藤、カットインのときは……」

指導を与えながら横目で伊藤をチラリと見る。


………この質感………


伊藤の髪の毛を見て名前ちゃんを思い出す。

伊藤の首筋、もっと白いがこの透明感…名前ちゃんの透き通るような肌を思い出す。

まつげ…、そう、上を向いて長かったけ。

爪…、そうだよ、この色だよ。

オレは思わず伊藤に抱きつく。

「うわああ!」

大きな声を出し立ち上がる伊藤。

「ど、どうしたんですか、藤真さん?」

目は丸くなり声が上ずる。

「…ワリィ」

オレは伊藤と反対側に伏せた。

そうだ、コレは伊藤で今は月曜日の放課後だっけ。

あれから夕べまでの三日間、寝る前に名前ちゃんを思い出しオレは幻影を抱きしめた。

抱いたんじゃない、抱きしめたんだ、ソコだけは間違えないで欲しい。


そんなオレたちの元へ走り寄ってくる巨体たち。

「藤真、藤真!」

「伊藤、大丈夫か?」

「オ、オレは大丈夫ですけど…。藤真さん大丈夫なんですか?」

「ああ、まあな。伊藤、話しあるから練習後、時間空けといてくれ!」


「誰だよ!面白いからしばらくほっとこうって言ったの」

「まったく重症だ、こりゃ」


オレは体育館の外へ担ぎ出されて、上から水を思い切り掛けられた。

「つ、冷てえ!」

何すんだよ!

頭上の四人を睨みつけると

「頭冷えたか?」

と花形がオレの目を覗き込んだ。

「まあな」

オレはそっぽを向いた。

「おまえがしっかりしてくれないとバスケ部回らないから」

高野が言った。

「あぁ、分かってる」

オレは水滴の滴る前髪を掻き上げて言った。

「頼むぜ、藤真」

一志が手を差し出した。

オレはそれを掴んで立ち上がる。

「じゃ、今日は何やる?」

永野がオレの目を覗き込んだ。

オレは永野の目をじっと見返して

「ランニングだな」

と言った。

「正気に戻るとコレだから」

永野が渋ーい顔をする。

「今日は何周するんだ?」

花形がため息を吐く。

「オレが疲れるまで」

「…」

「ダッシュ100本でもいいけど?」

「鬼!」

「オレにも、走りっこならうちは負けん、て言わせてくれよ」

「…分かったよ監督」


花形が集合をかけオレたちはランニングに出た。






「マジで足が上がんねェって」

「どうやって帰れっていうんだよ」

オレはランニング30qの後、ベンチ入りメンバーにはダッシュ100本も科した。

オレだってキツイのは知ってる、オレもやってるし。

すべては冬オレたちが優勝するためにやってるんだ。



「今日どこ?」

「どこって?」

「伊藤に待っとけって言ってたろ」

「ああ、ラーメン屋でいいだろ」

高野と花形が足を引きずりながら部室に向かう。


「伊藤に話って、なんだ?」

一志に聞くオレ。

「ああ、おまえのことだよ」

一志がニヤリとする。

「オレのことって…」

一瞬で理解したけどなんだかこっぱずかしい。

「伊藤には言っといた方がいいだろ。このまま何もする気ないなら言う必要もないだろうけど。
もっとお近づきになりたいんだろ、名前ちゃんと」

永野がオレの肩に腕を回し、ニヤーッと笑いかける。

「お、お近づきになったって、なんかしようなんては思ってないからな!名前ちゃんがいいって言うまでオレは…!」

永野のむさ苦しい腕を振りほどいてオレは言った。

「誰もそんなこと言ってねえって」

一志と永野がクスクス笑っている。

「そっくりそのまま伊藤に言ってやれよ。ただ、今日のあの態度じゃ信じてもらえるかどうか…」

一志がそう言うと笑いが爆笑に変わった。

先を歩いていたはずの花形と高野もいつの間にか一緒になって爆笑している。



「藤真さんていやらしいのね」

「頭の中どうなってるのかしら?信じられな〜い!」

調子に乗った高野と永野がクネクネして女のような声を出す。

花形と一志は笑いすぎて涙目になっている。



「てめーら覚えとけよ…」
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