カルピスソーダ

□♯3
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「お待ちどぅ」

お盆に乗せられドリンクが運ばれてきた。

今回は伊藤がそれぞれに渡したので指先の触れ合いはナシ。

それはそれでちょっとつまらなかったりするオレ。



これまでの展開が展開だっただけにオレはすっかり喉が渇いてしまっていた。

いち早くストローを挿し一気に吸い上げる。

ああ、この味、この味だよ!!

やっぱコレだよ!!

隣の名前ちゃんを横目で見る。

コップを左手に持ち穏やかな顔で液体を吸い上げる。

満足そうな顔だ。

………

ストローをくわえる唇…飲み込む動作を繰り返す喉…ストローを放すときの小さな顎の動き……

目が離せない〜!


「ん?」

名前ちゃんが不意にオレの方を振り返り首を傾げた。

!! 

ニコっとオレにほほえみかける。

おいしいねって言ってるみたいだ。

あぁ、この弾ける感じ…。

まさに恋だぜ、初恋だぜ!

そうだろ、カルピス!!

オレはまた一口カルピスを飲む。


………ん?

待てよ、これちょっと違くないか?

もう一度吸い上げ、口の中に多めに溜めてゆっくり飲み込む。

もう一度…。

確かにカルピスだけど…もっと弾けた感じっつうか、オレはもっとこう…パッションが…


ハッとしてその場に立ち上がり、

「カルピスソーダ一つ下さい!」

オレはマスターに向かって叫んだ。



「!!
ビックリさせるなよ、急に立ち上がったりして」

「心臓止まるかと思ったぜ…」

「まだカルピス残ってるのに…」

高野、花形、和志が立ち上がったオレに向かって目を見張る。

「座れよ、立ったまま待つ気じゃないだろ?!」

永野に促されオレは着席した。


今のこの感じを、インスピレーションを確認したい!

オレはカウンターの中のマスターを目で追った。


「名前ちゃんがビックリしちゃったじゃないか、藤真のせいだぞ」

あきれ顔の高野の声にハッとしたオレ。

顔を向けると名前ちゃんがグラスを持ったまま固まっている。

「あ、ごめん…」

オレは小さく言った。

「う、うん。大丈夫。心臓がドキドキしてるだけ」

ドギマギした顔の名前ちゃん。

…その気持ち、分かる!

背中をさすってやりたいけど、キミには触れないんだ。



「…いつもこんな風なの?」

名前ちゃんがオレをチラッと見て伊藤に言った。

突然の振りに伊藤が戸惑いを見せる。

「や、やや、ややや。いつもはもっと、落ち着いてるよ。今日はちょっと、えっと、あの…」

オレが慌てて答えた。

そうだ、コレがオレだと思われたら困る!!

「いつもはさすがにもうちょっと普通だよ、今日は大分おかしいな、やっぱり」

そう言って花形は大きく頷いた。

「大丈夫だから安心して。ね、名前ちゃん」

だから永野が言うと下心を感じるっての。

永野の言葉に名前ちゃんはニッコリして言う。

「卓ちゃんが話してるイメージと違ってたから。やっぱりそうなんだ」

さっきよりも大分落ち着いたらしい明るい声。


「藤真さん、何かあったんですか?」

伊藤が一志に尋ねている。

「…多分な」

一志がオレを見て言った。



「ヘイお待ちィ!」

カルピスソーダがやってきた。

「お待ちかねだぞ!」

永野がオレの肩にポンと手を載せ、良かったな、と笑いかけた。

テーブルの端に置かれたグラスを、名前ちゃんがオレの前に移動させる。

両手の指先でグラスを挟みテーブルの上を滑らせオレの前に置く。


強く握ったら折れてしまいそうな手首だ。

細い指先…餃子の皿の下で重なった感触を思い出し顔が赤くなる。

なにも塗ってないのにきれいなピンク色の爪…。

カワイイ。


オレの中でまた何かが弾けた。
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