カルピスソーダ
□♯3
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「伊藤、おまえ…いいヤツだな」
「オレはおまえが好きだよ」
「オレ、感動しちゃったぜ…ぐすん」
「これからもお互い切磋琢磨していこうぜ、遠慮するな」
皆それぞれに伊藤に言葉を掛けた。
伊藤の顔が明るくなる。
よし、オレも…!
「オレ、今からおまえんちに泊まりにいくよ、朝まで語り明かそうぜ!」
「「「「それはダメだろう」」」」
伊藤が目を丸くし、三年全員にツッコミを入れられた。
そして爆笑。
名前ちゃんもお腹に手を当てて笑っている。
笑った顔もカワイイ!
肩がゆれる、髪が揺れる、プリーツスカートの裾が揺れる。
白い歯が光る、コロンの香りがオレを包む、スカートの裾がオレの制服を掠る、…掠る?!
布が擦れ合う感触がオレの足に伝わった。
全神経が集中する、鼓動がまた大きく速くなる、血液が一気に駆けめぐって体中が火照って熱くなる。
オレ、絶対変だっ!
となりにいるだけなのに、触れたこともないのに(さっきのは過ち)、見てるだけなのに(一方的に)、どうしちゃったんだよオレ〜〜〜!!!
こんなことなら今までだっていくらでもあったはずだろ。
ナニしたってこんなことにはならなかったのに。
…ナニって…ゴクリ…。
チラリと名前ちゃんを横目で見る。
白い首筋がまぶしい…
わああ!!!
また鼓動が変だ!
心臓がイテェ…!!
不、不整脈、不整脈だっ!!!
誰か医者を呼んでくれ〜〜!!
…多分、オレ死ぬ…!
…死にたくねえ、彼女残して死にたくねえ…
彼女はオレが……
誰か助けて………
「おい、藤真!大丈夫か、さっきから。おまえ、具合でも悪いんじゃねえの?」
「腹イタでもおこしたのか」
「…」
「あ、大丈夫?席、立ちますか?」
名前ちゃんが心配そうにオレの顔を覗く。
「えっ、えっ?…あ、うん。大丈夫。大丈夫だよ」
オレは名前ちゃんにほほえみを返す。
「本当に大丈夫か?なんならもう…」
やめろっ!オレは永野を睨みつけた。
「オレは平気だ。せっかくだから飲み物でも飲もうぜ」
オレが提案する。
ここのラーメン屋で飲み物を飲むことは滅多にない。
よっぽどゆっくりするとき以外はオレたちは食べ物しか頼まないからだ。
オレの一言は、ここでゆっくりする、を意味している。
「藤真もようやく落ち着いたみたいだし、少し休んでから帰ろう」
と花形。
「伊藤。おまえたちは用とかあったら先に帰っていいんだぞ」
一志が伊藤に声をかける。
…ここで名前ちゃんが帰ったら、やっぱりオレも帰る…。
伊藤が名前ちゃんを見て、名前ちゃんが伊藤に頷いた。
「特に用ははないんでオレたちも一緒させて下さい」
伊藤が遠慮がちに言った。
…やったぜ!!!
喜びを噛みしめる。
伊藤、おまえは本当にいいヤツだよ!
オレはもちろんカルピスを頼む。
「じゃあ、アイスコーヒー三つ、ジンジャーエール二つ、カルピス二つ…でいいな」
高野が言った。
「カルピスって…?」
オレ以外にもいるのか?
「私、だけど?」
え?!
名前ちゃんも??
「な、なんで…?」
意味が知りたい、訳が知りたい!
「今日、暑かったから…夏みたいだったでしょう。夏っていったらカルピスかなって、昼間から飲みたかったの」
話し出すときの一瞬恥ずかしそうにする仕草が伊藤に似てる。
話し終えた後は、ふふっと笑うんだね。
伊藤もしてたっけ?
今度よく見ておこう。
…ま、それにしても大した理由じゃなくてよかった。
名前ちゃんの方を向いたついでに顔をじっと見つめる。
カワイイ…何度見てもカワイイ、髪の質は伊藤に似てるな、伊藤も色白だけどもっと白い…目は…鼻は…口は……
「え?」
名前ちゃんがオレを不思議そうに見る。
「おかしかった?」
変なことを聞く、キミはとってもカワイイのに。
「藤真!!困ってるだろ、カルピスは二。異存はないな」
高野がそう言って、マスターにオーダーする。
「藤真くんもカルピス好きなの?」
「う、うん。毎日飲んでる。」
名前ちゃんが驚いて目を丸くした。
「まいにち?!」
ほほえみながらそう言った。
「コイツの場合はちょっと理由があって…」
永野が苦笑いしながら言う。
その言葉に他のヤツらが苦笑する。
「べ、別に理由なんて…。好きだから飲んでるんだ」
なんとなく名前ちゃんに本当の理由を知られたくなかった。
名前ちゃんがオレを見てニッコリと笑う。
ゆっくりと口を開いて、
「大好きなんだ」
と言った。
!!!!!
「なっ、なにがっ?」
何が大好きなんだ???
「 ?? カルピス…。?? 」
名前ちゃんの目が一瞬遠くなる。
「あ、ああ…。カルピスね。う、うん。まあ、好きって言ったら好きだよ…」
ビックリしたぜ〜、何を言い出すのかと思ったぜ。
名前ちゃんは前を向き胸に手を当てている。
「大丈夫だよ、変なのこっちだから」
その様子を見ていた一志が笑って言った。
「藤真、今日は早く寝た方がいいぞ」
花形が言った。