カルピスソーダ

□♯2
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それから毎日、オレはカルピスを飲んでいる。

初恋の味を確認するためだ。

もっぱら初恋の相手を捜索中のオレ。

万が一、アンテナにひっかかる女子がいたときに、どうだったっけ?思い出せねえー!なんてことがないように、毎日、確認してるんだ。

オレがいかに本気か、分かってくれるだろう?


それにしても…

この世の中は男と女しかいないってのに…

ちまたじゃ恋の話で盛り上がっているってのに…


なんでオレにだけ訪れないんだよー!!


オレってもともと惚れっぽくないしな…

その前に初恋がまだって、オレって欠陥人間?



練習後、よく来るラーメン屋でラーメンをすするオレたち。一番最奥の八人がけのテーブルに
五人で座っている。

マスターに「キミたちはデカすぎる」と言われ、一番奥のテーブルに毎度通されている。

最初は六人がけだったそのテーブル、次に行ったときには八人がけになっていた。


「キミたちそこね」

ぶっきらぼうに最奥を指さしたマスター。

そのときからずっとそこがオレたちの定位置だ。

オレたちはラーメンの味だけじゃなく、マスターの人柄にも惹かれて通ってるんだ。




「まあ、そんなに落ち込むなって。欲しいときには手に入らないもんなんだよ」

「簡単に手に入ったらつまらないだろ。人事を尽くして天命を待つって言葉がある。出会いは運命だぜ、その日までおまえはカルピスを飲み続けろ」



一志と花形に慰められて、元気を出そうとするオレ。

「オレ、好きな子がいないってだけでこんなに寂しいなんて知らなかったよ」

口をついて出るのはため息混じりの言葉ばかり。

「おい、藤真。ズルズルッ。また、告白されてただろ。ズルズルッ。カワイイ子だったじゃないか。ズルズルッ。あの子じゃだめなのか?」

「高野、しゃべるか食べるかどっちかにしろよ!」

花形がいさめる。

「オレから惚れなきゃ意味ないの!全く、人の話聞いてんのか?」

「藤真に告白禁止って全校放送で流したいくらいだぜ。告白されるたんびにイライラされてちゃ、こっちの身がも保たん」

「オゥ。流してくれよ、永野」

ハイハイ、と言いながら永野が流したのはオレの言葉。


「藤真。笑う角には福来たるって言うだろ。もう少し毎日にこやかに過ごした方が初恋に近づけると思うぞ」

「…明日から気をつけるよ」

花形の言うことは一理ある。オレはここのところ、待てど暮らせど訪れない初恋にイライラしていた。

焦っても来ないもんは来ないことぐらい分かってる。

でも、宛てどなく待つってしんどい。



オレが「恋がしたい」って言ってから既に三週間が過ぎ、六月の半ばをとうに過ぎていた。


あの頃は、もうすぐ梅雨だから相合い傘しちゃったりして〜♪とか思ってたのに。

うまくいかないもんだな。


「食べろよ、藤真。ラーメン伸びるぞ」

「オレたち餃子追加するけど、藤真どうする?」

「おぅ、オレも追加。今日は食ってやる!」


高野がマスターを呼んだとき、店の扉が音を立てて開いた。


「あれっ伊藤じゃね?」

その声に伊藤がこちらを振り向く。

オレたちの姿を確認するや、妙に慌てた。

そういうことには目聡いオレたち。

「何だよ、伊藤」

「イラッシャーイ」

高野とマスターの声が重なった。

オレはラーメンをすすりながら伊藤の様子を上目遣いに見遣った。


「ちょっともう卓ちゃんー。急に立ち止まるからぶつかっちゃったじゃないー」

伊藤の後ろで甘い声がした。

鼻イタタ…とか、もうっ!とか言ってる割に、ちっとも伊藤に対する憎らしさが伝わってこない。

伊藤が更に慌てる。



どういうことだ、伊藤!!


「伊藤!なんだ、こっち来いよ!せっかくだから一緒に食おうぜ」


伊藤が彼女連れだってことは一瞬で分かった。

邪魔するなんて野暮だけど、こういう場合、やっぱ声かけるよね。


オレの誘いに観念した様子の伊藤。

後ろの女子、伊藤の彼女なんだろ、に何やら伝えている。


「早く来いよ」

オレの催促に一瞬ビクッとして、そそくさと彼女を連れてやってくる。

それを待つオレたち五人は一様に皆同じ気持ちだったと思う。

初めて見る伊藤の彼女にワクワクしていた。

明日からしばらくは伊藤で遊ぼ〜、なんてね。


伊藤は結構イイ男だからそれなりの彼女連れてるんじゃないの?

誰かがつぶやいた。


狭い通路を伊藤が歩く。

すぐ後ろを彼女が歩く。

伊藤の陰で彼女の容姿はまるで見えない。

ただ、制服のスカートが揺れるのが見えた。


「どうも…」

と言いながら伊藤がオレたちのテーブルの手前で止まった。

いつにも増してまごまごしている。

何か言いにくそうだ。

相変わらす彼女の顔は見えない。

伊藤がデカすぎるんだ。


「紹介してくれよ」

一志が優しく言った。


「ええと…」

伊藤の目が泳いだと同時に、ぴょこっと彼女が伊藤の後ろから顔を出した。

「名前です」


オレの息が止まった。
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