カルピスソーダ
□♯1
1ページ/2ページ
「オレ、恋がしたい」
そんなオレの告白に、部員一同がビクッとして無言でオレを見つめる。
まるで、未知の生物でも発見したかのような目つきだ。
「それはいったいどういう意味だ?」
花形がおそるおそる尋ねてきた。
まるで
「ここは銀河系第三惑星、地球という名の星の日本という国にある神奈川県藤沢市というところだが、きみはいったいどこから来たんだい?」
とでも言いたげな顔つきだ。
「そのままの意味だけど」
オレは真剣なまなざしで花形に返した。
今は部活の休憩時間。
しばしあっけにとられていた部員たちだったが、どうせまたオレの気まぐれだとでも思ったのか、
ドリンクを飲んだり、汗を拭いたり、着替えたりと思い思いに動き始めた。
そんな中、三年のスタメンの四人だけはオレの周りに集まってきて
「おまえ、恋がしたいって高野じゃあるまいし」
「それをいうなら永野だろっ。おまえいつも彼女ほしいって言ってるじゃないか!」
「恋っておまえ…恋の相手なら事欠かないだろ、藤真なら」
「藤真、説明してくれ」
永野、高野、一志、花形の順でそれぞれ口を開いた。
「確かにオレはモテる、モテ倒している。今この瞬間にだって彼女ならいくらでも作れるだろう。
告白してくる子に、いいよって言えばいいだけだから。今まではそうしてきた。でも、恋愛ごっこはもうやめにしたいんだ」
聞いてる四人の顔がだんだん無表情に近づく、オレは構わず続ける。
「欲望のままの恋愛ごっこは終わりにする。これからはオレが惚れた女子と付き合う。バスケが一番に変わりはないけど、どっちが大事?なんて野暮だろ。バスケをしながら、それでも大事にしたいと思える女の子と付き合うんだ。それが、インターハイ県予選で敗退したオレのケジメだ」
オレは言い切った。
本気を伝えるために一人ずつの目を見ていった。
つかの間の沈黙の後、花形が口を開いた。
「藤真、それはごく当たり前のことだと思うぞ」
「欲望のままに女の子と付き合えるヤツなんて、めったにいるもんじゃねーし」
と高野。
「ケジメってソレ…負けたことへのケジメじゃなくて、人として生きる上でまず付けとくべきケジメだろっ」
と永野のヤツ!
「…。それで、その恋のお相手はどこの誰なんだ?」
一志がため息を一つ吐いてから言った。
「まだいない」
「「「「????」」」」
四人は目を丸くしている。
「今、捜索中だ」
「捜索中って…」
「探して見つかるモンなのかよ」
「恋っていうものはだなぁっ、
………ああオレやだ、コイツやだ!!」
「待て。今の話で分かったことがある」
花形が三人を制し、黒縁のメガネを左手の人差し指でクイと上げ、ゆっくりと腕を組んだ。
そして、一呼吸置いて語り始めた。
「藤真はその類い希なる容貌により、恋愛に関してオレ達より数段高いところにいると思われていたが…、否、寧ろその良すぎる見た目のせいで、愛だの恋だのの精神的な面に関して、“こと幼稚”ということだ」
「なんだよ、ソレ」
オレ、めちゃくちゃけなされてないか?!
花形がメガネを光らせ更に続ける。
「要するに、藤真がこれからする恋は、初恋ってことだ」
花形の分析に、オレ以外の三人が一様に頷き納得している様子だ。
「初恋か〜藤真君。オレは幼稚園生の頃にすませたぜっ」
先輩ぶる高野。
「オレ、小学校の低学年のときだな〜。気になって気になってしょうがない子がいてよ〜」
「オレがこれは恋だって自覚したのは、小五のときだったな」
永野と一志がくすぐったそうに話す。
「ともかく、初恋はカルピスの味だそうだから、それが捜索の鍵だ」
休憩時間終了の合図がなった。