そのほか

□繋がり欲しさにたんこぶひとつ
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あくまで部内の連絡用にだ。
いいか、無駄なメールは絶対に送ってくるなよ。
―そう何度も念を押した後、やっと淀橋さんは私に携帯を差し出してくれた。

「えー…と、赤外線どこですか?」
「カメラの辺りだろ」

ぶすっとした表情でいかにも投げやりな返事。
この様子じゃあ、いつ淀橋さんの気が変わって携帯をしまわれるかわからないな…と、私は内心怯えていた。


つい5分前、アドレス交換の話を切り出したのは私のほうだ。
もちろん一言目には「いやだ」とばっさり切られてしまったが、私が「雑用でもなんでも、いつでも呼べば飛んでいきますから!」と
破格の条件をつけると、それなら、とようやく了承してくれた。
これじゃあみんなにM田ってあだ名をつけられてもしょうがないんじゃないかなぁ。
ああ、片思いの相手とアドレス交換するのって、そんな代償まで払わなきゃできないものだったっけ・・・・・・


「おい山田、何してる」
「…あっ、すみません!」

我に返った私はあわてて自分の携帯を赤外線の送受信画面にし、淀橋さんの携帯と向き合わせた。

『淀橋貞夫 登録しますか?』
ぱっと表示された画面に、私は思わず顔が緩みそうなるのを必死に抑えながら、決定ボタンを押した。
…流石に、携帯眺めてにやけてたら気持ち悪すぎるもん。

向こうの方にも私のアドレスは届いたようだ。
淀橋さんは軽く携帯を操作しながら、そういえば、と思い出したように呟く。

「家族以外だと、アドレス交換したのはお前が初めてだな」
「えっ!?」

思わず驚いて声をあげてしまって、あ、と私が口を押さえた時には淀橋さんはこっちを睨みつけていた。

「…何か文句あるか?」
「い、いいえ!あの…違うんです…その」

そこまで言って、私は迷う。
確かに淀橋さんは友達多くはなさそうだと思ってはいたけど…って、そうじゃないそうじゃない。
しばらく言い訳になる言葉を考えていたけれど、目の前の淀橋さんは相変わらずすごい形相で私を睨んだままだ。
ちゃんと言わなきゃ殴られるんだろうなぁ…恥ずかしさを堪えて、私は小さな声で吐き出す。

「う…嬉しいなあって思っただけ、です…」
「……」

一瞬の間。のあと、

「ふぎゃっ?!」

淀橋さんが振り下ろした携帯が私の頭に直撃する。
細腕の淀橋さんのげんこつより、硬質なそれは頭に響く。

「っちゃ、ちゃんと理由言ったじゃないですかあ…!」

頭をさすりながら私は抗議する。
殴ってきそうな顔してたから理由を話したのに、結局殴られるなんて訳が分からない。

「…馬鹿じゃないのかお前」
「え?」

淀橋さんを見上げると、その顔をふいとそっぽを向けられた。

「何でもない。
…僕はサッカー部のところに張り込んでくるから、お前はバスケ部行って来い!」
「は、はぁ…?」

淀橋さんは半ば叫ぶようにそう残すと、部室を飛び出していってしまった。


私は部室にひとり、ぼんやりと立ち尽くしたまま、さっき見たばかりの光景を思い出す。
そっぽを向く前のほんの一瞬に見た淀橋さんの顔は、どこか赤かったような気がした。


(…まさか、ね?)





<あとがき>
そのまさか!というあれです

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