そのほか

□我が新聞部の部長は、
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「むぁ、ふー…」

お昼の休憩時間。
淀橋さんと私しか居ない新聞部の部室で、菓子パンをぱくつきながら、ため息をついた。
最近はすごいスクープも見つからなくて、なんだか暇だな。…なーんて、怒られそうだから淀橋さんには絶対に言えないけれど。

「……」
「え、よ、淀橋さん?」

壁に貼られている新聞やら資料をなんとなく眺めていたら、淀橋さんがじっとこっちを見つめている事に気が付いた。
な、なんだろ。また何か怒られるようなことしちゃったかなぁ。

「…山田…」
「え?え?」

ひいい、淀橋さんからなんか黒くて怖いオーラが出ていらっしゃる。
私が恐怖に身を縮ませていると、淀橋さんは椅子から立ち上がり、つかつかとこちらに近づいてきた。

「ななな、なんでしょう…?」

私は手に持っていた食べかけのパンで額のあたりをガードする。
無駄な抵抗だと思うけれど、なにもしないよりはましだろう。

「…飯」
「ハイ?」
「それ、寄越せ」

なんのことかと、上げていた腕を下ろすと、淀橋さんが私の手の中のパンを指差していた。
パン。パンを寄越せといったのか。

「な、なんでですか?」
「弁当忘れたからに決まってるだろうが」
「は、はあ。それは大変で…って、でもこれ私のお昼ごは」
「知るか」

な、なんて横暴な。
でも淀橋さんが横暴なのは今に始まったことじゃないし、逆らえば何されるか分からないしなぁ…
仕方ない。私はおずおずとパンを差し出した。

「ど、どうぞ」
「ん」

淀橋さんは半ば奪い取る様にパンを受け取ると、がぶり、と大口で食らい付いた。
そんなにお腹空いてたのかなぁ。

「うまい」

…それは結構なことで。
淀橋さんは空腹が満たされたことですこし機嫌がよくなったのか、先ほどまでの黒いオーラが抜けていた。

「…あっ」

淀橋さんが二口目に行こうとしてる所を見て、私はあることに気が付き、声を上げた。

「…なんだ」
「これ、間接キスってやつですね」


―その瞬間、淀橋さんが盛大にむせ返った。

「ちょ…え、えええ?淀橋さん!?」

喉にパンがつまったのか。
淀橋さんは真っ赤な顔をしてその場にうずくまってしまった。

「あわわ、だだだ、大丈夫ですかっ!ええと、お茶、お茶」

私はパンと一緒に買っていたお茶のフタを急いで開けて、淀橋さんに渡そうとしたが、その手はぐっと押し返された。

「よ、淀橋さん?お茶は…」
「…ば、馬鹿かおまえ!これじゃまた間接……、ッ」
「え?」



…いや…いやいやいや。
私自身は全く気にして無かったんですけど。
口に出したのは、なんとなくそうだなって思い当たったからで。
言っちゃ悪いですけど、その、小学生じゃあるまいしそんな。

だから、そんな乙女顔負けの反応されても正直困っちゃうんですけど……淀橋さん。淀橋さん!?


(…我が新聞部の部長は、案外純情な人だったらしい。です)                                                      
   





      

<あとがき>
更にこのあと「大丈夫ですまだお茶は口つけてないです淀橋さん!」「なんかもうそういう問題じゃないだろアホ!」
みたいな会話繰り広げればいいと思います。

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