そのほか
□会長さまの言うとおり!
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※8巻、40話その後的な話
「いただきまーす」
「いただきます」
久々の日本料理を前に、俺と雅様は手を合わせる。
俺が先日、納豆を食べたいと言ったために
雅様は普段は行かないような質素な定食屋を昼食の場所に指定してくださった。
その心遣いに感謝し、いつもより長く手を合わせていたら
「そんなに日本食食べたかったの?」と笑われてしまった。
ああいえ、そうではないのです。
少し手を伸ばせばそこには愛しの納豆が待っている。
それを存分にかき混ぜたい、ネバネバしたいと思う気持ちはあるのだが…
俺は、雅様が一口食べるまでは料理に手を出さないことに決めていた。
それはいつものことで、今も俺は雅様の箸が動くのを見つめている。
その箸は、肉じゃがのジャガイモを掴むと、雅様の口元……
「はい、忍」
「っへ」
…ではなく、俺の口元へ。
「え…いや、あ、あの…?」
目の前には箸と雅様のまぶしい笑顔。俺は訳が分からなくて、口をぱくぱくさせる。
そんな俺の様子に、雅様は気を悪くしたのかムスッと頬を膨らませた。
「忍、もうちょっと長い間口開けててくれないと入らないよ」
「……は」
…どうやら雅様は俺に、付き合いたての恋人がするような、いわゆる「あーん」というやつをしたいらしかった。
どういう経緯でそれを俺に実行しようと思ったのかは知らないが…
が、しかし。
「み、雅様に食べさせて頂くなんて出来ません!」
俺は雅様に仕える身なのだ。主に食事をとらせて頂くなど、出来るわけもなかった。
それに此処には、いつも訪れる料理店のように個室なんてものは無く、まわりに他の客もいる。
それをするのは少し恥ずかしいという思いがあった。
申し訳ありません、それは雅様ご自身で食していただいてー…
そう口に出そうと思った時、
「…どうしても、ダメ?」
覗き込むような形で、雅様の大きな瞳が俺を捉える。
・・・・・・・。
「ほら遠慮しないで、あーん」
「…ハイ」
そう俺は、雅様に仕える身。
主の望みは何としても叶える。
それがたとえ端から見れば羞恥を覚えるものだとしても、主がそれを望むのならば
俺に拒否することなどはじめから出来はしないのだった。
ぱくり。
口に入ったジャガイモは、それだけでほろほろと身を崩した。味もよく染み込んでいる。
「久しぶりの日本料理、おいしい?」
「お、美味しいです。とても」
俺は自分の顔が熱くなるのを感じて、目を伏せる。
「ふふ、良かった」
けれど雅様の言葉に顔を上げれば、花のような笑顔が目前に飛び込んできた。
ああ、この方には適わないな、と俺は息をもらした。
(よしっじゃあもう一回…)
(! い、いいです心臓に悪いですっ!)
<あとがき>忍に喋らせるとなんだか文が長くなります。なんでだろ。
40話の二人がいちゃついてるようにしか見えなくてすごく悶えましたという話。