そのほか

□煙草とあの人
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セレナが研究所を去り、誰もいなくなった部屋。
ボクは窓枠に背中を預け、つい先ほどのかわいいご忠告に反してまた煙草を吸っていた。


『この煙草のパッケージ、フラダリさんみたいじゃないですか?』
『…本当ですね』
『ちょっと吸ってみようかなーなんて』
『やめた方がいい』
『え?』
『貴方に、煙草の匂いは似合いませんよ。プラターヌ博士』

フラダリさんと、昔そんな会話をしたことがある。
フラダリさんはいわゆる嫌煙家というやつで、煙草の話をするといつも険しい顔をされた。

(あれぐらい、ただの冗談だったのになー)

と思いつつも、今のボクは冗談ではなく、本当にあの時の煙草を吸ってしまっている。
フラダリさんがいたら、怒られただろうか。それともセレナのように「ほどほどに」と釘を刺しただろうか。
溜息と一緒に、ふうっと煙を吐くと、開いた窓からすぐさま逃げていった。


「・・・・・・」


机に置いていた、あの人に似た煙草の箱を手に取る。

―久しぶりに会ったセレナは、前と変わらず元気なままだった。
ポケモンや友達と過ごす毎日が、楽しくてたまらないって顔に書いてあるみたいに。
フラダリさんのことなんて、もう忘れてしまったみたいに。

本当はそんなはずがない。失ってしまった人を、簡単に忘れることなんてできないのは、自分自身が一番わかっている。
ただあの子たちは、まっすぐに前だけを向いて生きているから・・・それを感じさせないだけなのだ。

ボクだけが、遠い思い出に縛られたまま、身動きが取れなくなっているだけなのだ。
本当情けないったらありゃしない。もう、どこ行っちゃったのさ、

「ねえ、フラダリさん」

もういないその人の名を呼んで、まだ中身の残る箱を、くしゃりと握りつぶした。


     


<あとがき>
どうあがいても絶望なフラプラおいしいです                     
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