小市民シリーズ

□体育祭にて
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『親友』

うわあ。
広げた紙に書かれたその言葉を見て、ぼくは思わず顔をしかめてしまった。


今、船戸高校は秋の体育祭を開催中である。
そしてぼくは、その競技のひとつである借り物競走に出場していた。
正直、借り物競走なんて面倒きわまりない競技に参加はしたくなかった。しかし、それぞれの競技出場者を決めるLHRがあったその日、ぼくは運悪く熱を出して学校を休んでしまったのだ。

放課後、一人のクラスメイトがプリントを渡しに来た時の顔を見て嫌な予感がした。
そいつはあからさまににやついていたからだ。
そして案の定、プリントを見ると…『小鳩、借り物競走よろしく』の文字。


これまでの経緯は大体こんな感じだが、まあそれはいいだろう。
何よりも重要なのは今この時、ぼくが借り物の札として引いてしまったのが『親友』だったことなのだ。
ぼくに友達と言えるような人は今この船戸高校には二人しかいない。しかし…二択、という簡単な問題でもないのだ。

−小佐内ゆき。
彼女とは、互いに相手を楯に使い、言い訳に使っても良いという様な互恵関係を結んでいる。
そういう点では彼女を使わせてもらうのが一番なのだろうが…ぼくらは、周囲に恋人同士だと思われているのだ。
恋人として通っている彼女を、『親友』として連れて行くことを周りは不審に思わないだろうか?考える必要があるだろう。

−堂島健吾。
昔からの馴染みなのだが、仲が良いかといえばそうではない。
彼には今まで何度か事件の解決に手伝って貰うことがあり、少し恩を感じているぐらいのものだ。
それでも、友達という点なら小佐内さんよりも適切だが…お題は『親友』なのだ。
果たしてぼくと健吾の間にあるのが親友に値する友情なのか否か?これも考える必要がある。


ぼくは立ち竦んだまま視界を巡らせた。ぼく以外の出場者は皆、札を引いてすぐに観客席の方へ走り去っていく。
近くのスピーカーからは放送委員の「おおーっと!どうしたのか…1人の選手が立ち止まっています!」「悩んでいるのでしょうかー?」などのうるさいアナウンスの声。
ええいやかましい、思考に集中させてくれ。

小佐内さんと健吾。二人のどちらを選んでも、あとで微妙に面倒なことになるのが目に見えている。だがやはり……


ぼくはぎゅっと札を握りしめ、意を決して生徒のひしめく観客席へ一歩踏み出した。
…ああ、これだから借り物競走なんて出たくなかったんだ!








あとがき
小鳩くんはどっちの方に行ったのか、答えはおまかせ。
小市民は学校行事を書かれることがないのでいろいろ妄想してしまう。

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