小市民シリーズ

□ある夏の日の小市民
1ページ/1ページ


「私、暑いのって苦手なの」

ぽつり。
照りつける日の光を見上げながら、隣を歩く小佐内さんが呟いた。

「うん。ぼくも苦手だな、寒いのは割と平気だけど」
「寒さは服を着れば凌げるけれど、暑さはどうにもならないから」
「そうだね」

暑さでぼんやりとした頭で、ぼくはなんとなく適当に返事をした。

「……」

…のがバレたのか、隣の小佐内さんが恨めしげな表情でこっちをじっと見ている。

「…ええと、なにかな小佐内さん」
「わたし、すごく暑いの」
「はあ…」
「……」

またおざなりな返事を返すと、更に小佐内さんの顔が険しいものになる。
小佐内さんの言わんとすることは分かっている。ただ、今は…

「…あんまり、持ち合わせが無いんだけどなあ」
「構わないよ、わたし」

構わない、か。
なんとも曖昧な言い方だが、今はそう言ってもらえると少しだけ有り難い気がする。
ぼくはゆっくり腕をあげ、すぐ近くのスーパーマーケットを指差した。

「ええと…じゃあ、そこのスーパーでも寄る?」

…言いながら、流石にスーパーのアイスじゃあ駄目だったかなと思った。
小佐内さんは今まで(ぼくの知らないところでも)数々のスイーツを食べて、お店を巡ってきて、
そのデータのなかには極上のアイスを出してくれるカフェだって沢山あるのだろう。
それなのに今更、どこにでもあるスーパーのアイスだなんてぼくは……

「うん」

……あれ?
思いのほか、素直な言葉を返した小佐内さんにぼくは驚いた。思わずその顔を覗き込んでしまうくらいに。
小佐内さんは、渋々納得した不満げな顔でも、その程度かと冷めた目をしている訳でもなくて、逆にどこか幸せそうな笑みを浮かべていて。ああ。

「…ちょっとそれは反則だよ」

―『君と食べるならなんだって極上のスイーツ』?。
らしくない小佐内さんに、思わずぼくもらしくない言葉が頭に浮かんだ。



(どうしたの小鳩くん、早くお店に入ろう?)
(え、ああ、何でもないです。気にしないで)
(なんで敬語?)
(…それも気にしない方向で)
(おかしな小鳩くん)

                                        



<あとがき>これ、小佐内さんは全部分かってやってそうだ(台無し)
純粋にかわいい二人が書きたかったのです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ