小市民シリーズ
□一緒にかえろう。
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はあ、と息を吐くと白い煙があがった。
下校時間。
校内にも外にも船戸高校の生徒たちは溢れかえっていたが、やっぱり外は寒い。
俺は鞄からマフラーを出そうとして、校門の辺りに見覚えのある奴を見つけた。
「よう」
そいつの元まで駆け寄って、その背に声をかける。ややあってから、
「……やあ、健吾」
貼り付けたような笑顔の小鳩常悟朗が振り返った。
「今、振り向くまでに嫌そうな顔しただろ。お前」
「やだなぁ、そんな事してないよ」
「どうだか」
俺はため息を吐く。
常悟朗はそれに困ったように眉尻を下げ、それ以上何も言わなかった。肯定されているようで、少し腹が立った。
「ところでお前、こんな所でなにしてるんだ?」
聞かなくても大方予想はついていたが、一応聞いてみる。
「小佐内さんだよ。なんか日直の仕事があるとかで、今待ってるとこ」
やっぱりか。よほど仲がいいんだなと思った。
校内で常悟朗を見かけると、その隣にはほぼ必ず小佐内の姿があったからだ。
「そうか」
俺はそのことに傷付きはしなかったが、ほんの少しだけ寂しさのようなものを感じた。
なんだ、俺はこんな女々しいことを考える奴だったか?
恋は人をおかしくするだなんて言うが。よく言ったものだ。
ふいに、何処からか携帯の着信メロディが流れてきた。
メロディに聞き覚えがないから、俺のものじゃない。とすると、
「あ、小佐内さんだ。……」
ポケットから携帯を引っ張り出し開いた常悟朗が、その画面を見てしばし固まる。
「どうかしたか」
「…仕事が長引きそうだから、先に帰っていいってさ」
「はぁ…この寒い中待ったってのに、…あれだな」
「いや、まぁ仕方ないよ」
常悟朗は苦笑いを浮かべて携帯を閉じると、さて、と呟く。
「じゃあ、帰るとするよ。またね健…」
「おい待て」
別れの言葉を言いながら踵を返し、立ち去ろうとした常悟朗のコートの襟を掴む。
常悟朗はうぐ、と変な声を出して立ち止まった。
「え、な、なに」
「そこは一緒に帰ろうか、とか言えないのか」
「…ええー?」
「お前、酷いやつだな」
「ちょ…そこまで言う?それに、健吾の家は道が違うし、」
「途中までは一緒だろうが」
「……」
そこまで畳み掛けるように言い合うと、常悟朗は静かになり、そして心底呆れたような顔をする。
自分でも苦しいなとか、わかっているんだが。
しばらく俺の方が黙っていると、やがて常悟朗がぼそっと呟く。
「じゃあ…一緒に帰る?健吾」
「おう」
出来るだけ感情を表に出さない様に、返事をした。
それでも、手に持ったままだったマフラーを急いで巻いたのは、思わず笑みがこぼれた口元を隠すためだった。
<あとがき>まだ片想いな健吾でした
うっかりこの二人にはまっちゃって一番初めに描いたものです