青の祓魔師

□微意識となにか
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「うううああ……わっかんねぇーーー!」

夜。
机の上のプリントに向かい、叫び声をあげる兄に僕はためいきをつく。
ここ、旧男子寮は僕と兄さんしか居ないけど、他なら相当な近所迷惑だ。

「これでもかなり易しくしてあげてるんだけど?…どうなってるのかな、兄さんの頭は…」
「ひっでぇ!」

だってよー、などと言い訳を溢す兄さん。
僕がいいからペン持って!と叱りつけていると、部屋にドアのノック音が響いた。
こんな夜に、一体誰が。僕と兄さんは一瞬身構え、それぞれに武器を取ろうとするが…

「…奥村先生」

ドアの向こうから聞こえたその声に、
僕はすぐに緊張を解いた。

「ネ、ネイガウス先生…!?」
「ぅげっ、なんであの怖ぇーせんせ…もががg」
「兄さんは黙ってプリントしてて!」

持っていた教科書を兄の顔に押しつけ、
急いでドアを開いた。
暗い廊下には、髪の毛も服装も真っ黒なので暗闇にとけ込んでしまいそうなネイガウス先生が立っていた。

「…夜分遅くに」
「いえっ、それより…どうしてここに?」
「明日までに渡しておきたい資料があったのを忘れていてな」

そう言いながら、ネイガウス先生は小脇に抱えていた資料の束を差し出した。

「もう眠っているかと思って迷ったのだが…電気がついているようだったから」
「わざわざありがとうございます」
「…いや」

僕が笑顔で頭を下げると、先生はふい、と顔を背けてしまった。どうしたんだろう、と見つめていると先生はひとつ咳払いをして

「...それより、奥村燐まで起きているとは意外だな」
「え?あ、はい」
「あれは、一体何をしているんだ?」

先生の視線の先に振り返ると、兄さんは教科書を投げ、また唸り声をあげていた。

「べ、勉強ですよ…」
「ほう」
「今は机に向かってるだけまだマシな方なんですよ」
「大変だな、お前も」

眉を下げて、苦笑いを浮かべる先生。
ネイガウス先生は滅多に笑顔を見せない。から、思わず僕はそれをガン見してしまった。

「…奥村?」

先生が怪訝そうな顔をしてこっちを見る。
その視線に耐えられなくて、そっぽを向いてつぶやく。

「な、んでもないです」
「…そうか」
「……」
「……」

なんとなく気まずい沈黙が続く。
何か言わなきゃ、僕は焦る気持ちで掠れた声を出す。

「あ、あの、せんせ…」
「奥村」

名前を呼ばれて、え、と溢すのが早いか。僕の額に先生の唇が触れた。
びしり。そんな音がしそうな勢いで思考がフリーズする。

「…おやすみ、また明日」

先生は優しくそう言うと、部屋を後にした。
一方僕は、ドアの前に立ち尽くしたまま動けなかった。


「ん、雪男?あの先生帰ったのか…つーか、なんか顔赤くねぇ?」

兄に、そう声を掛けられるまで、ぴくりとも。






<あとがき>
同じ講師陣のなかでも、他の先生達と雪男がかなりの年の差があるってすごくおいしいと思います。

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