小市民シリーズ
□夢にまで
1ページ/1ページ
「常悟朗」
ほとんど壁に押し付けるような形で、健吾は僕に詰め寄った。
その表情はどこか堅い。
緊張でもしているのかな。
でも、どうしてだろう。
「…健吾?」
僕がぼんやり名前を呼ぶと、目の前の健吾はひとつ息を吸い、なにか決心したようだった。
「…好きだ、常悟朗――
――はっとして目が覚める。
「っ……」
目前には見慣れた天井。
辺りは薄暗く、窓から差し込む月の光だけがぼんやりと部屋を照らしている。
そこはぼくの部屋で違いなかった。
「……っはあ」
ベッドから体を起こし、しばらく止めていたらしい息を吐き出す。
そのあと空気を吸い込んだらむせ込んでしまって、ぼくは思わず苦笑を浮かべた。
「あー…」
ばたりと布団に倒れ込み、さっき夢で見た光景を思い出す。
あんな夢を見るなんて、きっと疲れているんだ。必死にそう思い込もうとして、ぼくは。
…ぼくは、なにか無性に隠れたくなって頭から布団を被って、火照る顔を手で押さえた。
(最悪だ。…あいつが居るのは、頭の中だっていうのに)
<あとがき>小鳩くんに夢を見すぎた結果です。