夢小説二
□花火
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「…きゃっ…!」
斎藤さんが倒れそうになる私を受け止めてくれたが、足元に強い力が加わり下駄の鼻緒が切れてしまった。
「俺の肩に掴まっていろ」
斎藤さんは私の足元に屈むと、懐から手拭いを出して細く切り裂き、私の鼻緒を器用に直してくれた。
下駄を履かしてくれる時に、斎藤さんの指が私の足先に触れた。
「どうだ、歩けそうか?」
「…あっ、ありがとうございます」
私を見上げる斎藤さんの優しい眼差しに、思わず顔が熱くなる。
私の頬はきっと、真っ赤に染まっているのだろう。
「―――――綺麗だ…」
真っ直ぐな眼で見詰められ、私の胸は壊れそうなほどに早鐘を打った。
「…斎藤さん…」
気の所為か、斎藤さんの頬がほんのりと赤く見える。
暫く見詰め合ったあと、斎藤さんはハッと我に返ったように、
「あ、いや…。その、………花火だ…」
と照れ隠しをするように空を見上げた。
――――――刹那、私の背後から細い光の筋が舞い上がり、破裂音と共に橙色に弾けた。
大空に描かれた大輪の菊のような光。
私たちは、その大きな花火を見上げた。
「……本当…、綺麗…」
斎藤さんが、私の手をそっと握った。
私も、斎藤さんの手を握り返して、二人で歩き始めた…。
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